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絵描きのおじいさんとその孫
 むかしむかし、まだ動画も写真もなかった時代。
 エッチなことをスケッチしてそれを人に売って生活するというのを生業にしている絵師がおりました。
 その絵師は来る日も来る日もエッチなことをキャンバスに描き続け、いつの間にかエッチなこと以外描けなくなってしまいました。
 その事実にショックを受けた絵師は、初めて被写体である女性に触れてみたいと思うようになりました。
 今まではただ見るだけをそのまま描いてきた絵師にとって、実際に触って感触を確かめるなんて事は絵を描くことに比べたら大変つまらないことで時間の無駄だとさえ思っていたのです。
 そんな絵師が描くことに疲れ、初めて、絵ではなく被写体の女性を正面から見据えました。
 そこにはとても美しい、この世の者とは思えないほどの姿、形をした女性がいました。
 これまで、ただひたすら黙ってその絵師のためにエッチなことをし続けた女性は初めて自分を正面から見てくれた絵師に言いました。

「やっと本当の私を見てくれましたね。貴方が描いてきたこれまでの私は本当の私ではありません。
 それではいくら上手く描けてもいずれは描くことに限界を感じて挫折するだろうと薄々感じていました。
 ですが、ひたすら真剣にキャンバスに向かう貴方を見ていると、ただの被写体である私ごときがアドバイスしても聞き入れてくれるかどうか心配で、ともすればこの被写体の仕事を下ろされるのではないかと疑心暗鬼に陥り、不安と恐怖で黙っている他ありませんでした。
 そんな私を許してくれとは言いません。ですが、今貴方が見ている私は本当の私です。
 それを実感して頂く意味でもどうか私にお触れください。
 貴方の手で指で舌で鼻であらゆる感覚器を使ってこの私に触れてみてください。
 そうすればきっとまた大好きな絵を描き続けることができると思うのです。
 無礼を承知でお願いします。どうか私にお触れください。
 貴方が本当に描きたいものをもう一度その手につかみ取ってください」

 絵師はその女性の言葉に引き込まれるように、キャンバスから離れ、ゆっくりと女性が佇む場所へ歩き出しました。
 今まで感じることのなかった甘い匂いが絵師の鼻をくすぐります。
 それは女性に近づけば近づくほどより一層はっきりと感じられるようになりました。
 その時、絵師は思いました。今までの自分の絵には匂いも感触も何一つ存在しないではないか。それで本物の絵を描けたと言えるだろうか。
 自分が描きたかったのは匂いも感触も本物のように実感として見るものすべてに伝わるリアルな絵だ。
 これまではただエッチなことをそのまま何も考えずにキャンバスに写し出していただけにすぎない。
 自分が触れたこともないものをどうして人に伝えられるだろうか。
 そんなことも分らずに自分は調子に乗って嘘だらけの偽物の絵を世間に売り出し、それで儲けた金で生活していたのか。
 なんたる恥さらし。仮にも絵描きを名乗っている自分がそんな詐欺まがいなことをして恥ずかしくないのか。
 絵師の瞳からポロリと涙が零れました。

「さぁ、お手を」

 涙を流した絵師の目の前に女性は優しくそっと手を差し出しました。
 絵師はその手をしばらく見つめ、これまでの自分の行いを振り返って反省しました。
 自分がいかに被写体を疎かにしていたか痛感したのです。
 目の前の女性は自分がいつも絵に描いていた女性であるにも関わらず初めて出会ったような錯覚にさえ陥りました。
 そして、初めて見た本物の手は絵に描いた手よりも美しく、今すぐにでも触ってみたいと思わせるほどの魅力に溢れていました。
 それを理解したとき、絵師の目からはまた大粒の涙が流れ落ちました。
 女性はそれを見ても何も言わず、そんな絵師をただずっと優しい瞳で見守っていました。
 やがて決心した絵師はゆっくりと自分の手をその女性の手に重ねました。じんわりと温かい感触が胸の奥にまで届いてきました。

「あぁ、そうか。僕が描きたかったのはこれだったのか」

 それ以来、その絵師の描いた絵は今までのような単なる描き写しの絵ではなく、見るものすべてを圧倒させる正真正銘の裸婦画に成長しました。
 その絵師と女性はやがて結婚し、子を産み、最期の時まで幸せに裸婦画を描き続けましたとさ。めでたしめでたし。

◆◆◆

「おじいちゃん? これおじいちゃんのこと?」
「いいや。ワシはただの同人上がりのヒヨッコじゃい。
 この昔話に出てくるような人間はもうこの時代にはおらんだろうて。今じゃすっかりデジタルじゃ。フォトショがあれば何でも描ける時代じゃ」
「じゃあ、なんで僕にこんな話をするの?」
「それはな、正。お前が大きくなったとき、きっとこの世界に本物の世界と偽物の世界の区別がつかなくなるときが必ず来ると思ったからじゃ」
「本物と偽物?」
「そうじゃ、いいかい正。よくお聞き。もしお前が大きくなったとき、本物と偽物の区別がつかない世界になっていたら、どうやって本物を見つけ出せばいいと思う?」
「ググル!」
「……」
「違うの?」
「そうではない、正。今の昔話の一体何を聞いていたんじゃお前は」
「おっぱいを揉んだところまでかな」
「揉んでもおらんわ! そんな描写一切なかったわ! 触ったのは手じゃ! 手! わかる? ユーアーハンズ!」
「分るよ。手でしょ。だからおじいちゃんは何が言いたいの?」
「最近の子供は結論を急ぎすぎじゃ。まぁええわい。答えを言おう。本物と偽物を見分けるには自分で触れるしか方法がないんじゃ」
「そんなのいつも触れてるよネットとかで」
「バカもん!」
「ひぃ!」
「何のためにその手があるんじゃ。それはただの飾りか? 目に見えるものだけがすべてか? そうではないだろう正。
 何かに迷ったとき、何が本当で何が嘘か分らなくなったとき、触れるほうを信じるんじゃ。
 たとえそれが痛みを伴うものだったとしてもその手で触れられるものは必ずお前を本当の世界へ導いてくれるだろうて」
「難しくて僕にはよくわからないよ」
「そうか、まぁいずれ分るときが来るだろう。
 その時、今ワシが話したことを実感するだろうて。
 この絵師の昔話はそうやってワシの祖父の代その前の代、そのずっと前々の代から語り継がれてきた由緒正しき伝記なんじゃ。
 正も子供が出来たらぜひ子供に話してやっておくれ」
「おっけー! じゃあちょっとオンラインで遊びにいってくる!」
「……まったく、あやつはほんと分っておるんだろうか……ぶつぶつ。
 それにしてもこのフォトショは高性能じゃのぅ。こりゃあメモリも増設せなあかんのぅ」

 おじいちゃんのパソコン画面には二次元の女の子の裸婦画が数百枚ほど晒されていたとさ。めでたしめでたし。



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