Blogまうまう
生きてるうちに言いたいことを言っておく
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魂の雄叫び ~悪魔が俺をこう変えた~
 朝起きたら、女の子になっていた。というのは少々語弊があるかもしれない。
 正確には下半身のごく一部が女の子になっていた。そう、アレがないのである。
「な……なんでやねん!」
 誰にともなくつっこんでみたが、虚しいだけだった。
 俺の名は須巻聡一。市立仙譚高校に通うごくごく普通の高校生だ。
 今年の春、高校に入学してやっと新しい生活に慣れてきた頃だというのに、どうしてこうなった。
 改めてまじまじと自分のあそこを観察してみるが、明らかにあるべきものがそこにない。
「俺のちんこどこいったんやー!」
 思わず頭を抱えて叫んでしまうのも致し方ないことだろう。
「お兄ちゃん! 朝からうるさい!」
 突然ノックもなしにドアを開けるわが妹。少々礼儀がなっていないが、今はそんなことにいちいちつっこんでいられるほど俺も暇ではなかった。なので華麗にスルーする。
「さて、まずは俺のちんこがどうしてなくなったのかを考えないとあかんな」
「朝からちんこちんこ……お兄ちゃんってばもっと女の子のことも考えてー!」
 などとのたまい俺の部屋を出て行くせわしないわが妹であった。
 そもそも女の子なのに「ちんこ」とか言ってる時点でお前に女の子の何が分かっとるねんと心の中でつっこむ俺だった。
「ふむ。駄目だ。サッパリわからん。とにかく飯だ。ちんこの件は食べてから考えよう」
 一物がないせいなのか、寝起きだからか分からないが、体のバランスが妙におかしくて何度か廊下でこけそうになりながらも無事食卓へついた。
「ねぇちゃん。おかわり」
「朝からよく食べるわね。あんた。それよりさっき千恵を泣かせてたみたいだけど?」
「知らんわ。アイツが勝手に俺の部屋に来て勝手に出て行っただけやん。俺なんもしてないし」
 わが姉の手料理はうまい。そりゃもう朝からご飯を三杯はおかわりするぐらいにはうまい。
「そう、ならいいんだけど……あんた今日は朝勃ちしていないのね」
「え?」
 思わず自分の股間を確認して「しまった」と思った時にはすでに遅かった。
「ふーん。なんか面白いことになってそうね。みせなさい」
「はい」
 有無を言わせないわが姉の笑顔。デススマイルだ。この笑顔から逃れられたことは一度もない。つまり俺は姉には逆らえないのだった。
「なにこれ。面白いわね。どうしたのあんたのちんこ? どっかいっちゃったの?」
「さぁ……俺にもさっぱり……朝起きたら突然こうなってて……」
「それでちんこちんこ叫んでたのね。千恵にあとで謝っときなさいよ。あの子極度の恥ずかしがり屋だから」
「はい……」
 自分で「ちんこ」言うのは恥ずかしくないくせに人が言うと恥ずかしがるわが妹の神経が分からないが、姉に命令されたからには謝っておくしかないだろう。俺の家は基本的に年功序列なのだ。
 そのあと居間の隅っこでうずくまる妹に謝り、そのままいつも通り学校へ行く支度をして玄関を飛び出した。股間に違和感を抱えつつも学校を休むわけにはいかない。とりあえずは普通にしてればどこも変わった様子はないので学校に着いたら大人しくしていよう。
 そしてゆっくりこうなってしまった原因を考えればいいのだ。ちんこがなくなったからって今すぐ死ぬわけでもないしな。
「おはよう」
「おはよう」
 教室に入るとクラスメイト達に挨拶をされる。最初の頃はぎこちなかったけど今はもう皆すっかり馴染んでいる様子だ。だから余計に今の俺の状態が皆にバレるわけにはいかない。今はちょっとしたことでも人間関係に亀裂が入ってしまう微妙な時期なのだから。
「おはよう。そういっちゃん!」
「おぉ。おはよう」
 俺が自分の席に着こうとしたところで、突然背後から声を掛けてきたのは一見すると男に見えるほどベリーショートな頭をした女の子。楠木麻衣子だ。
「そういっちゃん。今日はどこか元気ないけど何かあったの?」
「え? いや何もないよ。ちょっと朝食べ過ぎちゃってお腹がイタイぐらいかな。ハハハ」
「ふーん」
 馬鹿そうな面をしている割には感が鋭い子である。他のクラスメイトと違ってやけにフレンドリーなので対応に困るのは事実だ。でもまぁコイツにはバレないだろう。なんやかんやで好奇心が旺盛だから俺だけに構ってる奴ではない。
「あ、みっちゃんおはよう!」
「……………………はよう」
 さっそく、楠木は別の奴に挨拶していた。よく見るとそこにはこのクラスでも一際目立つことの無い……いや目立たなすぎて逆に目立ってしまってる地味な生徒、眼鏡をかけたいかにも根暗そうな外見の女の子(でもおっぱいは大きい)桜木美智子がいた。
「今日はみっちゃん、なんだか色っぽいね。何かあったの?」
「…………………ない」
「ふーん」
「あ、おはよう! おはよう!」
 俺の時とほとんど一緒の対応。アイツはほんとにテンプレみたいな行動しかできない奴だな。まぁそのおかげ俺の秘密もバレないで済むが。楠木が教室中を駆け巡って挨拶をしているのを眺めながら、桜木が俺の前の席に座るのを確認した。
 楠木が言うようにたしかに今日は桜木からどこかしらの色気を感じる。普段が普段だけにちょっと頬が上気してるだけでこんなにも女は変わるのか。恐ろしいな女子高生ってのは。おっと俺の股間が……そうか……アレがないから当然勃起もしないのか……。
「はぁ……」
 俺は深い溜息をついた。
「………………」
 前を向くと一瞬だけ桜木がチラっとこちらを見ていた気がするが、おそらく気のせいだろう。仮に見ていたとしても俺に話しかけてくることはない。コイツも安全牌だ。
 朝のHRも終了し、いつもどおりの授業風景が展開される。普段の俺ならこのまま眠りに落ちるところだが、今日はそうは問屋が卸さなかった。授業そっちのけで今現在の自分の股間に対する異常事態を冷静に分析していた。
 どうして俺のちんこがなくなってしまったのか? ちんこはないけれど、よくみたらコレは女性器のソレではないか? だとしたら俺は女になってしまったのか? いやおかしい。女になっているのなら、外見もおっぱいもその他諸々女らしくなっていなくてはいけない。なのに俺の体はちんこ以外はまるで男のままだった。
「そんな、馬鹿な……」
 絶望すると同時にチャイムが鳴った。いつの間にか昼休みに突入していたようだ。まるで授業を受けた記憶がない。いやそれはいつものことか。
 とにかく早急に元に戻る方法を探さなくてはいけない。元に戻る? いや違うな。元に戻すだ。そう、ちんこがなくなったのだからちんこを探し出せばいい。そうだ、そうしよう。
 俺はそのまま席から立ち上がると、このクラスで最も頭のいい生徒、山口伝五郎の席に向かった。山口に聞けば大抵のことは何でも分かるのだ。
「山口……ちょっと聞きたいことがあるんだが、いいか?」
「よかろう。つづけたまえ」
「…………」
 こういうやつだ。語り口調も去ることながら、その外見も恐ろしいほどに古風だった。学生服に学生帽、そしてマント。入学初日からこの格好だったのでもはやこの学校で山口のことを知らない奴はいないと言っても過言ではないだろう。
 そんな変人とクラスメイトになってしまったのは当時は最悪だと思ったが今思うとそれが最良だったのかもしれない。なぜならコイツはこんなナリをしていても成績は常にトップクラスで教師たちにも評判が良く、人が困っていればそれがたとえどんな奴だろうと手助けするほどお人好しなのだ。だから憎めない。先生たちもそれがわかっているのでこの山口の特殊な格好を許可している。ただの変人ではないということだ。
「実はその……俺さ……あーいやー、俺というか……まぁなんだ俺の友達の話なんだけどね?」
「ふむ」
 昼飯を食べていたのかそれを中断して俺の顔を真剣に見つめてくるその視線に若干の罪悪感を感じつつも俺は続けた。
「股間の一物が突然消えちゃって、それを元に戻す方法ってあるのかな?」
「…………」
 しまった。ちと唐突すぎたか。いやでもこう説明する以外にどう説明すればいいのかもわからない。待つこと数秒。山口は真剣な顔でこう返してきた。
「それはつまり、女になったということか?」
「あ、いや。たしかに女になったと言えばなったんだが……そうじゃなくてもっとこう局所的な話で……股間のアレがさ……こうひゅっと突然いなくなることってあるのかな?」
「…………」
 何を言ってるんだ俺は。これじゃますます彼を混乱させるだけではないか。ええいままよ。こうなったら単刀直入に聞くしかあるまいて! 教室には昼食を食べてるクラスメイトたちが他にも大勢いるが背に腹は変えられん。いざ!
「待ちたまえ。君が今言おうとしていることはここではまずかろう。しばし場所を変えよう。そうだな。差し当たっては今現在誰も使用していないであろう。視聴覚室を使わせてもらおうか」
「へ?」
 そう言うやいなや、山口は食べかけの弁当を片付け、さっさと教室を出て行ってしまった。あっけにとられた俺は山口の姿が見えなくなってから慌てて後を追いかけた。彼に追いついた頃にはすでに職員室で視聴覚室の鍵を借りているところだった。相変わらず教師の信用度がハンパない。俺ならきっと嫌な顔をされて永遠に視聴覚室を使う理由を問われているだろう。
「さぁ、ここなら誰もいない。君が本当に言いたことを言ってくれたまえ」
「あぁ……」
 この行動力。そして何よりまだそんなに話したこともなくて仲良くもなんともない俺のためにここまで状況を整えてくれる優しさ。こりゃ教師が惚れ込むのも分かる気がするな。山口がここまでしてくれたんだから俺もその期待に答えないとな。俺はおもむろに制服のズボンのベルトを緩めるとそのまま一気にパンツと一緒にずりおろした。
「つまり、こういうことなんだが……これを元に戻す方法って分かるか?」
「なるほど。見事なつるまん具合だ。少し触ってみてもいいかな?」
「え? あ、あぁ……いいけど……」
 特に驚いた様子もなく山口は俺の股間に手を伸ばしてきた。咄嗟のことだったのでつい頷いてしまったが、そういや俺はまだ自分で触って確認していなかったことを思い出していた。つまり俺のちんこがなくなって初めて触れるのが山口ということに……
「あ、ちょっとまっ――――!」
 その時俺に電流走る。今までに感じたことの無い快感が俺の体中を駆け巡った。なんだこれは。目がチカチカする。足が震えて立っていられない。そして何よりも声が――
「んぁ!」
「おっと……すまない。敏感なところを触ってしまったようだ。でもこれで、はっきりした。どうやら君のコレは本物のようだな」
「そ、そうか……」
 男同士だというのになぜか俺の鼓動は高鳴った。きっとさっき山口が俺の突起物に触れたせいだと思う。まさかいきなりそんな所を触るとは思ってもいなかったのでびっくりした。でも確かにこれではっきりした。やはり俺の下半身は女の子になってしまったのだ。
 そのあともじっくり山口に観察及び触診をされて、潮までふいてしまった俺だが、詳細は省くことにする。なんせ完全な女体化ならまだしもこんな中途半端な女体化のサービスシーンなど需要はないからな。うん。
「で、何か分かったか?」
「あぁ。何も分からないということが分かった」
「…………そうか」
 やはりダメだったか。山口でも分からないとするともはや誰に相談しても無駄だろう。俺が半ば諦めかけていると山口が言った。
「だが、可能性の話ならできるぞ」
「え?」
 俺が顔を上げると山口が黒板にチョークで何かを書き出した。どうやら俺に分かりやすいように板書してくれるようだ。なんという紳士。
「君のペニスが消失した原因は分からないが、考えられる可能性としてはざっと百万通りある」
「ひゃ……ひゃくまん!?」
「いや冗談だ。真に受けないでくれたまえ」
 お前が言うと冗談に聞こえないんだよ。まぁでもきっとこれもコイツなりの優しさなんだろう。深刻な話をする前にギャグを入れて相手の緊張を緩和させる。山口はほんとにイイヤツだった。
「現実的な可能性としては、ウィルス説。後天性性転換症などがあるが、どちらもたった一日でここまで見事に体質を変化させるとは到底思えない。よって非現実的な可能性も考えなくてはならない」
「非現実的な可能性?」
 それはつまりアレか。スーパーでサイヤ的な人が七つの玉を集めて何度も人間を蘇らせて命の軽さを全面に押し出すようなアレだな。たしかにそれはあまりにも非現実的すぎてもはやギャグだ。
「つまり俺はこれから七つの玉を集める旅に出ればいいのか?」
「何を言ってるんだ君は」
 あれ? 乗ってこない? いやまぁたしかに唐突すぎたけど……。
「そんな玉はこの世に存在しない。私が言いたいのは黒魔術あるいわ心霊現象といった非科学的な現象が関わっているのではないかという話だ」
 なんだよ。俺の言ってること分かってるんじゃねぇかよってつっこみはあえてしないでおく。そんなことよりもまさか山口の口からそんな非科学的な単語が出るとは思ってもいなかったのでそちらのほうが驚きだった。
「お前……結構頭が柔らかいんだな」
「成績が優秀で頭のいいキャラであることは私も自覚している。だからといってなぜ頭が固くなくてはいけない? そもそもこうして私は君のペニスが消失している事実をきちんと確認したのだ。自分で見たものを否定することのほうがよっぽど馬鹿馬鹿しいとは思わないか?」
「あぁ。いや確かに……山口の言うとおりだ。勝手にキャラ付けして悪かった」
 コイツもコイツでいろいろ悩んでるんだな。それが分かっただけでも有意義だった。これからはコイツともっと仲良くなれそうだ。
「でもだとしたら俺はどうすればいいんだ? そんな黒魔術だが幽霊だか目に見えないものの影響によってこんな体にされたとあっちゃあ、もうどうしようもない気がするんだが……」
「そうだな。私にもどうしようもない。だから何も分からないことが分かったと言ったんだ。君の問題を解決できるのはきっと私ではないのだろう。だがこうして相談されたからには私にも責任がある。だから私よりもそっち系の話に詳しい友人を紹介しよう」
「友人?」
「あぁ。非科学的なことに関して、彼の右に出る者はいない。私も一目置く友人だ」
「へぇー……」
 そう山口に言われるままに案内されたのは何を隠そう自分たちの教室だった。俺もまさかとは思ったが、そのまさかだった。俺の目の前にいるのはこのクラスでも一際目立つ変人。いや変人を通り越してもはや変態だ。見た目があまりにも標準すぎるために、その中身がより一層際立っている。言動のすべてがおかしい男――
「ユー、俺とキスしちゃいなよ」
「えーやだーキモイー。あはは」
「わざわざイケメンボイスと女声を使い分けて一人芝居してんじゃねぇ!」
 鳴沢英彦だった。アニメの声優を目指しているとかで、どうやらそっち系の話に詳しいらしい。山口もとんでもない奴と仲良くしてるんだな。いやどっちもある意味ぶっとんでるので相性が良いといえば良いのか。でもまさかコイツを紹介されるとは思わなかったので少々ガッカリした。いや……少々ではないな……すごくガッカリした。
「で、僕に相談したいことって何ですかな? 山口氏がいつにも増して真面目な顔で僕のところに来たかと思えば君……えっと須巻氏だっけ? まぁ僕は山口氏ぐらいしか友達がいないので他のクラスメイトの名前も顔も覚えてないわけですが。で話は戻るけど、須巻氏は一体……」
 今は当然放課後である。俺と目の前のペラペラと無駄口を叩く鳴沢以外、教室には誰もいない。山口は放課後もまた別の誰かに相談されて、ソイツの相談を受けるために先に帰ってしまった。できれば鳴沢と二人っきりって状況は避けたかったんだが、仕方あるまい。間違っても山口の推薦なんだ。鳴沢なら俺の今の状況を打開できるだけの何かを持ってると判断したのだろう。癪だが今はそれにすがるしか無いのもまた事実だった。
「あぁ。お前なら俺のちんこをなんとかしてくれると思って、相談しに来たんだ」
「僕にBLの趣味はありませんよ?」
「BL? なんだそれは……」
「これだからパンピーは……」
 何に気分を害したのか知らないが、非常に扱いにくい奴なのは確かだった。
「まぁ見てもらったほうが早いだろう。コイツをみてくれ? どう思う?」
「っ!?」
 俺は山口の前でやったのと同じことをそっくりそのまま鳴沢の目の前でやった。
「ふ・じ・こ・ちゅわぁああああああああああああああん!」
「ってうわぁああああああああああああああああああああ!」
 突然鳴沢が飛び上がったと思うと奇声を上げて、飛びながら器用に服をすべて脱いで俺に飛びかかってきた。ていうかなんだこの現実離れした技は。ルパンダイブをリアルでする奴なんて初めてみたぞ。ていうかそもそもなんで俺に向かってルパンダイブなんか。
「ぐへぇ!」
 俺はそのまま全裸で飛び込んでくる鳴沢の顔面を思い切りぶん殴った。
「どうだ。目は覚めたか?」
「ふふふ。ナイスパンチですよ。須巻氏。あやうく僕も人生を踏み外すところでした」
 鼻にテッィシュを詰め込む鳴沢を冷めた目で見つめながら、俺は事の次第を話した。鳴沢は目をキラキラと輝かせながら俺の話に聞き入っていた。
「なるほど。なるほど。これは確かに山口氏では解決できない問題ですね。彼は確かに変なキャラですが、至ってまともな人ですから。現実を超える問題にには対処できないんですよ。その点、僕はなんでもありですよ。貴方がそうなった原因を百万パターンはすでに思いつきました」
 また百万か。俺はつっこむのもめんどくさいのでそのまま鳴沢の言いたいように言わせることにした。
「つまり。端的に言うと、貴方の股間はおそらく他の誰かの股間と入れ替わってしまっている状態と言えます」
「おい、ちょっとまて。なんでそうだと断定できる。百万通りの原因があったんじゃなかったのかよ!」
「はい。でもそれを一つ一つ説明し、また検証するのもめんどくさい話でしょう? それに今回の物語は長編にするつもりはまったくないらしいのでここらで種明かしをするのが賢明だと思いますが? それとも貴方みたいなごくごく平凡のキャラが突然女の子になってイチャイチャされるお話のほうが良かったですか? 僕はごめんですね。少なくとも僕はTSジャンルというのはそんなに好みではありませんので」
「………………」
 おーし。よしよし。よく手が出なかった。褒めてやるぞ俺の拳。なるほど、鳴沢の言ってることは八割方意味が分からないが、とにかく俺の今の状態は見知らぬ誰かの仕業で確定ということらしい。ならばもう話は簡単だ。そいつを見つけ出して俺の息子を今すぐ元に戻してやる。
「世話になったな。今後もう二度とお前とは会話しないと思うが、今回の件に関しては礼を言っておく。いいか? このことは誰にも話すんじゃないぞ」
「はいはい。最初にも言いましたが僕には友達が山口氏しかないですし、それに僕の口から出た言葉はどうせ皆ただの妄言と思うでしょう。だから須巻氏が心配する必要はまったくないということですよ」
「………………」
 ふむ。ちと言い過ぎたかもしれない。コイツもコイツでやはり悩みはあるんだな。こっちの勝手なイメージだけで人のキャラを決めつける癖は治した方がいいかもしれない。
「すまない。言い過ぎた。また何かあったら相談するよ。サンキューな」
「いえいえ。それよりも僕は貴方の股間に興味がっ――」
 手つきがすごくいやらしかったのでまた思いっきり殴ってしまった。鳴沢はいやらしい顔をしたまま昏倒した。

 家に帰り着く頃には俺の頭も十分整理されて、今後の対策を前向きに考えられるようにはなっていた。
 しかし、なぜか今俺は妹のぱんつを履かされている。
「おい。千恵。これは一体何のマネや」
「お兄ちゃん。おちんちんどっかいっちゃったんだって? だから千恵ね。お兄ちゃんのためにカワイイぱんつ用意したよ!」
 おーけー。落ち着こう。妹にこんなワケの分からないことを吹き込めるのはおそらくあの姉しかいない。姉に何を言われたのかしらんが、どうして俺が妹のぱんつを履かなくてはいけないのか。だがしかし、ここで再び妹に対して俺が理不尽な態度をとると、おそらくあの姉のことだからもっとエスカレートした話を妹に吹き込むかもしれない。だから俺ができることといえば、ただ一つ。妹のしたいようにさせることだけだった。
「つるつるだねぇ。お兄ちゃんもお股の処理してるの? お姉ちゃんはボーボーだからお兄ちゃんのこと羨ましいって言ってたよ」
「ふーん。そうなんだ。ははは。ってなんでやねん!」
 あの姉貴。それが発端か。朝俺の股間を見せたときにやたらと難しそうな顔をしていたが、まさか自分の毛の濃さを理由に俺でストレス発散するとは……わが姉ながらえげつない人やで……ほんま。
「もういいだろ。気がすんだやろ。俺はこれから風呂にはいるんや。ぱんつはもう終了や。さっさと片付けてこいや」
「えー。せっかくお兄ちゃんに似合いそうなぱんつ探してたのにー。いけずー」
「はいはい。じゃあ風呂出たらお前の一番気にいってるぱんつ履いたるわ。それで勘弁してくれ、な?」
「うん!」
 ほんま現金な奴やなぁ。それにしても早いところ元に戻らないとこれは半永久的に妹や姉に遊ばれてしまう。俺は湯船の中で一体誰の股間と俺の股間が入れ替わったのかを考え始めていた。犯人はおそらく女だ。鳴沢が言うには、この手の展開の場合、身近な奴が犯人だから、今まで出てきた登場人物の中に必ずいるからソイツの股間を確認してみろってことらしい。
 ふむ。だいたい分かった。俺が今日出会った人物で、女といったら、妹、姉、楠木、桜木の四人だ。つまりこの中に犯人はいると。そう、あとはこいつらの股間を俺が確認して……
「ってそれからどないせいっちゅうねん! そもそもそんなことしたら俺変態確定やんけ!」
 はっきり言って、絶望が俺のゴールだった。その日の夜も結局悶々として寝付けなかった。気づいたら朝チュンで、俺の股間ももちろん元には戻っていなかった。
「はぁ……」
「じゃーん! 千恵の新しいぱんつだよ!」
「はぁ……」
「じゃーん! 千恵の新しいぱんつだよ!」
「大事なことなので二回言っちゃったのね。千恵かわいいわ千恵。食べちゃいたい!」
「もう、お姉ちゃん。千恵はお兄ちゃんに言ったのー」
 朝から妹と姉が下着姿でじゃれ合っている。いろいろつっこみたいが、今はそんな気分になれない。それにこれで二人は犯人ではないとはっきりと確認できた。
 女性用の下着は男では履きづらいのだ。そう二つの玉が邪魔をする。男のぱんつと違って女のぱんつは恐ろしいほどに股間との接触面積が狭いからな。俺も小さい頃姉のぱんつを何度も履いて確認済みだ。玉がその接触面積を押し広げるようとするので履いていて気分のいいものではない。つまり目の前のテンションの高い二人にはちんこがない。イコール玉もないので、当然犯人から除外される。家族が犯人じゃなくて良かったのか悪かったのか、少なくとも今の俺にとっては何の慰めにもならなかった。
 けど、テンションはガタ落ちしてもきっちり飯を三杯おかわりするぐらいにはやはり姉の料理はうまかった。
 学校にたどり着く頃にはすっかり元気を取り戻し、残る二人の容疑者の股間をどうやって探ればいいのかを必死で考えていた。
「おっはよー! そういっちゃん!」
「あぁ。おはよう」
 今日も元気だ。いい匂い。うん、女の子はこれぐらい活発でないといかんな。少なくともスカートをもっと翻すくらいには派手に動きまわって欲しいと俺は思っている。
「あれれ? そういっちゃん。今日はなんだかすごくえっちぃ顔してるよ?」
「おっと。ふふ、何を言ってるんだ楠木。男は常にえっちぃもんだぜ」
「あ、みっちゃんおはよう!」
「って人に話ふったんなら最後まできかんかい!」
 ミスノーブレーキの名前は伊達じゃない。とにかく一つの場所に一定以上止まることができない楠木が股間に一物を抱えているとは考えづらい。男ならまだしも女がいきなりあのような重りを身につけると動き方は自然と不自然になるはずだ。自然と不自然ってのもおかしな言い方だが。とにかく楠木のあの動きから察するに奴は犯人ではないだろう。
 となると残りは……
「……お……はよう……」
「おう……おはよう」
 桜木が俺に挨拶しただと。馬鹿な。だがこれでますます怪しい容疑者は一人に絞れた。昨日からの桜木の態度といい、今回俺に挨拶したことを鑑みても一番怪しいのコイツだ。やはり、あれは伏線だったのか。俺としたことがあんな単純な伏線に気づかないとは。まぁいいだろう。頃合いを見計らって桜木に真意を問いただそう。
「そう、お前はどうして俺の股間をほしがったのか」
「……え?」
「え?」
 しまった。つい口に出してしまった! おい待て。そこでなぜ顔を赤らめる。まさかほんとにお前が――。
「す……」
「す?」
「オーッス! 聡一! しょんべん行こうぜ!」
「ぐげぇ! ってもうHR始まるだろが! ゆとみ!」
 大事なところで邪魔が入るのは仕様みたいなもんか。俺はそんな何かのゲームみたいな仕様の運命に流されながらも、このクラス唯一のまともな友人、倉前ゆとみに無理矢理引きずられてトイレに来てしまった。
「俺、一度連れションってのしてみたかったんだ」
「はぁ? 何ワケのわからんことを……」
 ってまずい。勢いでチャックを降ろしたが今の俺には象さんの鼻がないので、このタイプの便器にはうまく発射できねぇ。
「おっと。そういや今日はまだおっきい方をしてなかったな。というわけで俺はこっちでするわ。お前は先に戻ってていいぞ。ゆとみ」
「お? そうか。なるべく早く戻れよ。もうすぐ一時間目はじまっちゃうぞ」
「お、おぅ……」
 ってお前が無理矢理引っ張ってきたんだろうがとつっこみたいのは山々だが、なぜかトイレに来るとしたくなくてもおしっこしなくちゃいけないみたいな脅迫観念に駆られるので、俺はそそくさと便器にまたがった。
 しかし、改めて見るとほんとつるつるだな。俺にまだちんこがあった頃はきちんと毛もあったはずだが……。
「そうか、分かったぞ。これはつまり入れ替わった相手のあそこがつるまんだという決定的な証拠……やっべちんこたって……くるわけないよな……はぁ」
 チョロチョロと虚しく流れゆく自分のおしっこを呆然と眺めながら、たかがおしっこでトイレットペーパーを消費することに激しく苛立ちを覚え、教室に戻ってくる頃には当然一時間目の授業が開始されていた。

 そんなこんなで結局放課後になるまで何の解決策も思い浮かばず、今日もまた無駄に一日を過ごしてしまったことを後悔した時にはすでに教室には誰もいなかった。
 結局、桜木が俺に言いかけていたことは何だったのか分からずじまいだった。ゆとみに邪魔されて肝心なことを聞き忘れてしまった。結局アイツは俺になんて言おうとしていたんだろうな。
「あ、あの……須巻くん……」
「おわっ!」
 校門を出るといきなり背後から幽霊みたいな声で名前を呼ばれて飛び退いた。よくみるとそこにいたのは桜木その人だった。なんとも絶妙なタイミングで現れるので、俺はもしかしたらこのあととんでもない真実を知ることになるのではないかと胸が高鳴った。
「実は須巻くんに大事なお話があるの」
 ほらきたー! やはり犯人はコイツだったのか。よぉーし。なぜこんなことをしでかしたのか洗いざらい吐いてもらうぞ。そして早急に俺のトンガリコーンを返してもらうんだ。
「ここじゃ恥ずかしいから……近くの公園まで……いいかな?」
 もじもじと体をくねくねさせながら言うもんだから、なんだか変な勘違いを起こしそうだ。俺は無言で桜木の問いに頷くとそのまま桜木に先導されて人気のない公園にやってきた。このシチュエーション。俺がまともな体だったらおそらく告白シーンみたいなのを期待するんだが、いかんせん今の俺はまともな体ではないので、これは特殊なケースと考えるべきだ。ここで判断を間違えて桜木を怒らせてしまったら、今度はどうなるかわかったもんじゃない。下手をすれば俺の体がまるごと女になりかねん。それはそれで楽しそう……いやいや何考えてるんだ俺。
「あ、あのね。私ね!」
「きゃー! たすけてー!」
「な……なに……!?」
 くそ、またしても良いところで邪魔が! 一体なんだってんだ!
 俺は誰かのSOSの声が聞こえた方向と桜木の顔を交互に見つめるとそのまま勢いでこう言った。
「ちょっとここで待ってろ桜木。すぐ戻るから! 五分経って戻らなかったらとりあえず警察か何かに連絡しろ! お前はついてくんじゃねぇぞ! あぶねぇからな!」
「まっ――」
 桜木の制止も聞かずに俺はそのまま声が聞こえた方向に向かって走り出した。自分でもなんでこんなことをしているのかよく分からない。自分の問題が解決していないのに見知らぬ誰かのために走るなんて、それこそ何かの物語の主人公みたいでかっこいいじゃないかと思った。
 まぁ俺の問題なんてちょっとぐらい先延ばしにしても後からどうとでもなる話だ。それよりさっき聞こえた声は切羽詰ってるようだった。誰かは知らないが、まずい状況にいるのは確かだろう。
 俺が声の主と思われる人物の前にたどり着いた時、たしかにそれはまずい状況というに相応しい状況だった。うちの制服を来た生徒が他校の生徒数人に囲まれているというような状況だ。
「おう。なんか可愛い声で鳴くじゃねぇか。もしかしててめぇ女か?」
「それはないっすよ。コイツどう見ても男じゃないっすか。胸もないし」
「ふん。まぁどうでもいいんじゃね。さっさと金もらってゲーセン行こうぜ」
「だな。というわけで、早く財布だせよお前」
「嫌!」
「なんだとてめぇ!」
 おー。なんとまぁ典型的なカツアゲシーン。俺はとりあえずどうしたものかと思案した。顔はよく見えないが、うちの学校の生徒に間違いはない。どうやら相手は粗暴で有名な桃城高校の奴らだ。相手は三人。俺一人が無闇に割って入ってもきっとフルボッコにされて終了だ。最悪俺もカツアゲされかねん。俺はケンカは丸っきしダメなんだ!
 かといってここで見てみぬふりするのも俺の紳士道に反する。ならばどうするか。答えは簡単だ。ハッタリしかない!
「おうおう。お前らその辺でやめとけや」
「あぁん?」
 ここらじゃ俺の地元の方言は割と威圧感を与えるはずだ。普段学校とかではあまり使ったことはないが、家でならしょっちゅうこんな言葉遣いだ。だからまぁこれでちょっとした時間稼ぎぐらいにはなるだろう。五分もすれば桜木がきっと助けを呼んでくれる。最悪俺がフルボッコにされてる間に誰かが来れば万々歳というわけだ。
「なんだお前? コイツの友達か? だったらお前も金だしてとっと消えな」
「はぁ……これやからこっちの人間はなってない言われるねん」
「何言ってるんだコイツ?」
「ええか? 自分ら三人おるやろ? 三人おって一人の学生から金取り上げても一人分ぐらいにしかならんやんけ。そしたら他の二人どうすんねん。仲間内で取り合いか? みっともないわ。そんなんする暇あったらさっさと家帰ってクソして寝とけ。お前らみたいなもんがうろついてると、こっちも目障りなんや」
 よし決まった。俺は満面の得意顔で言いたいことを言ってやった。案の定あいつらはぽかんと口を開けて間抜けな顔をしている。俺は今のうちやと、カツアゲされそうになってた生徒に目配せして激しくツッコミを入れた。
「って、ゆとみ。お前なんでこんなところにおるんや!」
「そ、そういちー!」
 ゆとみが涙目になりながら、俺の方に向かって走ってきた。ば、馬鹿。こっちへ来てもまたあいつらと向かい合うはめになるやんけ。俺は必死でこっちへ来るなとゆとみに目線でアピールするが、それを安心しろのサインに受け取ったのか、激しく頷いて俺の胸に飛び込んできた。
「ぐげぇ! その脚力でさっさと逃げろと……」
「そ、そういちー! ぐすん」
 泣き顔のゆとみはなぜか女の子っぽくてすごく可愛かった。それに何より男であるにも関わらずとてもいい匂いがした。
「って、俺は何男に欲情してんだ。ちくしょお!」
「おい、こっちを無視してるんじゃねぇよ!」
 ゆとみの背後から桃城高校の奴らの一人が殴りかかってきた。俺は慌ててゆとみをどけると、そのままソイツの拳を受け止めた。まぐれだった。
「もうええやろ。これで分かったやろ。自分らじゃ俺にはかなわへん。さっさとどっか行ってその持て余したエネルギーを発散してこいや。悪いことは言わへん。ケガせんうちにとっと――ぐっ」
「へへへ。股間ががら空きだぜ。さすがに急所を蹴られたら、男は立ってられないよな?」
「…………なんちゃって」
「え?」
「おうりゃああああああああ!」
 俺はそのまま勢いで相手の足を絡めとり、柔道の大外刈りみたいな格好で相手を地面に叩きつけた。もちろんまぐれだった。
「残念やったな。こんなこともあろうかと、普段から急所は鍛えてあるんや。自分らのケリぐらいじゃ痛くもかゆくもないわ」
 当然そんなわけなかった。痛いことには痛かったが、幸い今の俺には玉がないので、股間は急所にならずに済んだだけの話だった。完全にラッキーだった。こんなことで股間に感謝する日が来るとは思いもしなかった。今だけはこのつるまんに素直にありがとうと言えた。
「さぁ、次はどっちや? なんなら二人まとめて相手してやってもええねんで?」
 調子に乗っていた。俺はそのまま残りの二人にフルボッコにされながら、涙目になってしまった。
「コラー! お前らー! 何をしとるかー!」
「やっべ。ゴリラだ。アイツに見つかるとやべぇ。逃げるぞ!」
「あぁ。くそ。せっかくいいカモみつけたのによ。覚えてろてめぇら!」
「………………」
 さっきまで俺を殴ったり蹴ったりしていた二人はそのまま地面に倒れ伏すもう一人の生徒を担いで路地裏に消えていった。背後を振り返ると、鳴沢と山口が立っていた。
「須巻氏も馬鹿な人ですね。まぁでもその勇気は認めますよ。でもあの手の手合いにハッタリをかますならもう少しマシな文句を考えてくださいよ。そもそも多対一という方式はですね……」
「大丈夫かい? 君はもう少し冷静な人かと思っていたんだが、意外と感情的に動く人だったんだな。私達が来るのがもう少し遅かったらこの程度の怪我では済まないところだったぞ」
「あぁ……サンキューな山口。ついでに鳴沢」
「ついでとは。僕の声のおかげで、助かったというのに……」
 どうやら、桜木が連絡を取り付けたのは、俺がつい最近仲良くなった変人達だった。鳴沢の七色ボイスのおかげで助かったのは癪だが、奴は一体どこから他校の情報を引き出したのだろうか。おそらく桃城高校の先生の声だと思うんだが、あんな一言でアイツらが逃げるなんて……俺の苦労は一体……。
 山口は俺の怪我を見るやいなや早急に見事な手腕で手当てをしてくれた。山口を呼んでくれたのは正解だ。というか山口だけで良かったのに……。
 そんな山口と鳴沢の後ろで、今にも泣きそうな顔の桜木がぽつんと立っていた。俺はそれを見て。カッコ悪いところ見られちまったなぁと場違いなことを考えていた。
 結局、無駄に怪我をしたのは俺だけで、実際にからまれていたゆとみは無傷。桜木との大事な話もうやむやになってしまい、踏んだり蹴ったりだった。

「ていうかお前。なんであんな所でからまれてたんだよ」
 次の日。教室で俺はゆとみに文句を叩きつけていた。俺はその程度の男である。
「ごめん。ごめん。なんかさ。普通に歩いてるだけだったのに向こうから寄ってきてさ」
 なんて明るく言うが、実際に被害を被ってるのは俺ひとりだった。まぁでもいいか。こうやって笑えるだけマシかもしれないな。ゆとみはちょっと世間離れしすぎてる節があるからな。家が地味に金持ちなのも影響しているんだろう。桃城の生徒がそれを自覚した上でゆとみを襲ったのかどうかは分からないが、少なくともコイツは見ていて危なっかしい。昨日の今日だから、念のため今日は一緒に帰ってやるか。
「なぁ。ゆとみ。今日は一緒に帰るか?」
「え?」
 いつもなら素直に頷くゆとみだったが、なぜか今日に限ってイタズラが見つかった小学生みたいな顔で固まった。
「おい。どうした。俺と一緒に帰れない理由でもあるのか?」
「あー……いやえっと……今日は部活でその……」
「はぁ? お前が部活に入ってるなんて初めて聞いたぞ。なんの部活だ?」
「えっと……部活じゃなくて……同好会かな……」
「どっちだよ!」
 おかしい。こんなゆとみは初めてだ。まるで俺と帰るのを嫌がってるような。まさか俺嫌われたのか! そんな昨日あんなに必死で俺にしがみついてきたのに! やっべ思い出したらちんこた……つわけなかった……二重の意味で。
「まぁ無理にとは言わないが……」
「すまん。また今度一緒に帰ろうぜ!」
 それっきり、ゆとみはいつものゆとみに戻った。一体何だってんだ?
 自分の席に戻ると見慣れない白い封筒が丁寧に机の上に置かれていた。まさかこんな堂々とラブレターを置いていく奴が世の中にいるなんて! と思ったがそんなわけない。開けてみると中の手紙にはこう書かれていた。
『大切な話があります。放課後皆がいなくなってしまったら教室に戻ってきてください。桜木』
 可愛らしい丸文字で、桜木からの果たし状がきていた。
「ってなんでやねん!」
 思わず立ち上がって盛大につっこみを入れる。ここぞとばかりに。手紙という無機物につっこむのもみっともないが、普段我慢してるんだからこれぐらい許されてもいいだろう。
「で? 須巻。私の説明のどこが分からなかったのかな?」
「え?」
 顔を上げると数学の教師が眉間に血管を浮かばせながら俺を睨んでいた。
「す、すいません。俺の勘違いでした」
 そのあと教室中の失笑を買ったのは言うまでもない。この手紙をよこした桜木本人までぷるぷると背中を震わせて静かに笑っていた。おのれ許すまじ、桜木。
 放課後になり、俺は皆がそそくさと帰宅するのを自分の席でひたすら眺めていた。前の席を確認するが、桜木はどうやら一旦教室を出て行ったようだ。おそらく人が捌けたら戻ってくるのだろう。そんなめんどくさいことをいちいちやってられるか。俺は不貞腐れながら、桜木が戻ってくるのを待つことにした。
 ふと、目線の端にゆとみが映った。教室を出て、下駄箱とは真逆の方向へ歩きだしたので、俺は今朝のやりとりを思い出した。
「そういや、アイツ部活がどうのこうのって言ってたな。ふむ。まだしばらくダベってるやつもいるし、時間つぶしにアイツがどこに行ったのか見てくるか」
 俺は重い腰を上げると、教室を出て、ゆとみが歩いていった方へ足を踏み出した。しばらくすると、人気の少ない棟にやってきていた。ここら辺は化学実験室のあたりだ。アイツこんな所に一体何しにきてるんだ。
 ふと、立ち止まると化学実験室の辺りから黒っぽい煙が出ている。まさか不審火!? そう思った俺は勢い良く実験室の扉を開けた。するとそこには――
「ゆとみ!?」
「げ、聡一!? なんでここに!」
 俺のゆとみが魔法使いの成り損ないみたいな格好をして、変な模様の円陣につっ立っていた。とうとうおかしくなっちまったか。ゆとみ。かわいそうに。
「なんて、俺が言うと思ったか!」
「え? 突然意味わかんないよ。聡一」
「分からないのはこっちだ。これは一体どういうことだ?」
 俺はたじろぐゆとみに詰め寄った。ゆとみは観念したように涙目になって土下座してきた。
「ごめん! 聡一。君のおちんちんと俺のおまんまんが入れ替わったのは俺のせいなんだ!」
「……………………………………は?」
 超展開きたこれ。俺の脳みそが沸騰しそうだ。もうどこから何をつっこめばいいのか分からない。ゆとみが犯人? いやまて、ゆとみは男じゃないのか? なのに、おまん……げふんげふん。おかしい。何かが狂ってる。目が覚めて起きたらきっとすべて元通りだ。さぁ目覚めろ俺。こんなワケの分からない夢をみているぐらいならさっさと目覚めろよ俺!
 俺は自分の頬を引っ張ってみるが全然痛くなかった。それもそのはずだ。その程度の刺激で痛みを感じないほどには俺も相当混乱していた。
 そんな俺を見かねたのか、ゆとみはおもむろにズボンを脱ぎ始めた。ゆとみのその仕草は男のソレというよりはまるで女性が好きな男の前で恥じらうように着脱する姿に似ていた。
「これでどう? 見覚えあるだろ? このおちんちんのホクロ」
「お、俺のチンコー!」
 そこにあったのはまごうことなきマイサン。まさかこんなところで再会できるなんて。ありがとうゆとみ。俺は君に感謝――
「するわけねぇええええええええええええええ! きちんと俺に分かるように説明しろゆとみぃいいいいいいいいいいいいい!」
「ひぃいいいいいいい。ごめんなさぁあああああい!」
 一通り暴れて落ち着いたところで俺はゆとみから事情を事細かに聞き出した。ダラダラと説明するのもページ数を使うので。要約するとこういうことだ。
「つまりなんだ……お前はほんとは女だけど男として育てられて、今の今までおちんちんがない人が男だと思ってた。でも高校に入学して初めて男にはちんちんがあるものだと知った。遅いなおい」
「えへへ」
 そこ笑うところじゃねぇからな。
「でも今更女と名乗るわけにもいかず。にっちもさっち行かない時に、黒魔術にハマッタと。飛びすぎだろ」
「飛んでないよ?」
 そうじゃねぇよ。発想が飛びすぎって言ってるんだよ。
「黒魔術で呼び出した悪魔に、おちんちんがほしいと言ったらほんとに生えてきたと。でも自分はまだ女のまま。おかしいなと思ってよく見たら下半身だけ男になっていた。なんでやねん」
「だから俺、悪魔に確認したんだよ。このおちんちんどっから持ってきたの?って」
「そしたら、その悪魔は俺の名前を口にだしたと。なんでやねん」
「ごめんね。俺もまだ上手く黒魔術使えないからさ」
「そういう問題じゃねぇよ!」
 どういう神経してるんだコイツは。自分のやったことの重大さに気づいてないのか。そもそもなんだ黒魔術って、山口が言ってたのはやっぱり当たってたってことかよ。それよりなんだ鳴沢のやつ。あいつは女が犯人だって言った癖にこの反則技はないだろ。ゆとみは誰がどう見ても男……とよく考えてみれば男とは思えない描写がそれなりにあった気がする。
「分かりにくいんだよ。伏線が!」
「何の話?」
「こっちの話だ」
 あれ? じゃあこれでもう問題は解決したも同然じゃね? ゆとみが女だったのは驚きだけど、黒魔術で俺とゆとみの下半身だけが入れ替わったのなら、また同じように黒魔術で俺とゆとみの下半身を入れ替えてもらえばいいだけの話じゃないのか。
「よし、ゆとみ。この際だ。もうやってしまったことは忘れるとしよう。とにかくこのままじゃ俺が不便だから元に戻してくれないか。それでチャラにしようじゃないか」
「うん。ソレなんだけど。なんかあの悪魔もう出てこなくなちゃった。てへっ」
「ふーん…………そうなんだ…………へぇー…………」
「怖いよ。聡一。ここはちゃんとつっこんでよ!」
「つっこめるわけねぇだろ馬鹿! どうするんだコレ! 一生このままかよおい」
「俺はこのままでもいいんだけど……」
「お前はそれでいいかもしれんが、俺の立場も考えろって話だよ!」
 なんてこった。ゆとみの馬鹿は頼りにならない。黒魔術というワケの分からないもので、俺のビッグマグナムは今ゆとみのビッグマグナムと化している。そして俺の股間にゆとみの可愛いつるまんが……
「そういや、お前って毛生えてないのか?」
「べ、別に生えてなくてもいいんだからねっ!」
「ソレ使い方間違ってるぞ……」
 生えてないことはやっぱり恥ずかしかったのか。まぁたしかにこの年にもなってこの見事な毛なしはある意味すごいな。うん。そうか、ゆとみは女だったかー。
 ん? 何か重大なことを忘れている気がするぞ?
「ってまずい! そろそろ教室に戻らないと桜木が!」
「え? 桜木さん。聡一に用があったの? じゃあ引き止めるのも悪いね。はやく行ってあげなよ。聡一」
「あぁ。そうするか……っててめぇも一緒に来い! 話が済んだらお前にはいろいろ説教しなくちゃならんことがあるからな!」
「えー! そんなー!」
 グズるゆとみの首根っこを引っつかみながら俺は自分の教室へと戻った。
「いいか? ここで大人しくしてろよ? 逃げたらあとでどうなるか分かるな?」
 ゆとみをこれでもかというぐらい脅して、俺は一人教室の中へと入っていった。
「よ……よぉ。待たせたな」
「…………私も……今きたところだから……」
「そうか……」
 まずいぞ。ゆとみが犯人と分かったからには、つまりコイツは犯人ではない。となると、俺をこうして呼び出す意味は一つしかない。それはつまりこくは――
「実は……私……須巻くんのことが……」
 ゴクリと飲み込む唾。高なる鼓動。俺は今猛烈に青春している。
「だめー!」
「え?」
「…………あ」
「よろしい、ならば今度はコイツと交換だ」
 まばゆい光が俺たちを包み込む。生暖かい感触が俺の体中を這いずり回り、そして何か得体の知れないものが目の前を飛び交っていた。ゆとみはソイツのしっぽを捕まえながら必死で何かを叫んでいる。おや。桜木の様子もおかしい。なんだか、すごく息苦しそうにしている。そうだ、俺が側に行って介抱してやらないと。これからは俺と桜木は世間一般でいうこいび――
「ふぅ。お仕事完了。ではさらば」
「いっちゃだめーーーー!」
 ゆとみの金切り声とともに視界がクリアになっていく。俺の目の前にはとても凛々しいお姿の桜木が……
「須巻くん……その胸……」
「え?」
 俺の胸に二つの大きな風船。嫌だなぁ。誰かな? こんなイタズラしたのは。俺は正真正銘普通の男……
「桜木……お前……胸どうした……」
「や……見ないで……」
 桜木の豊かだった胸は今はもう見る影もなく、もはや絶壁と言っても差支えがなかった。何より顔もずいぶん男らしくなり、まるでほんとに男になったかのような……
「ごめん。聡一。なんか悪魔が、上半身まで入れ替えちゃった」
「そうか。そうか。お前の仕業か。うん、怒ってないぞ。俺全然怒ってないからな」
「怒ってるよね! ソレ絶対怒ってるよね!」
「あの! 須巻くん!」
「はい?」
 ゆとみをとっちめようと腕を振り上げたとき、彼女は言った――。
「好きです。付き合ってください。こんな姿になってしまったけど、私は貴方のことが大好きです」
「へ?」
「やったね。聡一! 彼女ゲッチュウ!」
「ダマレ!」
「ぐはぅ!」
 ゆとみに顔面パンチを食らわせつつ俺は夢でも見ているかのような気分に陥った。いやでも夢のほうが良かったのかもしれない。少なくともこの異常な状況で唯一まともな感覚をしているのは俺だけのはずだった。
「あー。桜木。お前の告白は素直に嬉しいし。俺もお前と付き合うのはやぶさかではない。でもよく考えて欲しい。俺がまるごと女で、お前とゆとみが半分づつ俺の男の部分を持ってる状況ってのは一体どう受け取ったらいいんだーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
 俺は叫んだ。あらん限りの声で。
 
 そうして俺は見事に女体化に成功した。
 といっても、俺の上半身は桜木のソレで。下半身はゆとみのソレである。
 そして、桜木の上半身は俺のソレ。ゆとみの下半身は俺のアレであった。
 もう何が何だか分からないが、とにかく言えることはひとつだけ。

 俺の男を取り戻す旅はまだ始まったばかりだ。

 いつかきっと正真正銘の男になるために、俺は今日も女の格好で学校に通うのだった。

「お兄ちゃん、今日のぱんつはコレね!」
「いやぁー。あんたのセーラー服もなかなか様になってきたわね。そうだ。今日の髪型はツインテールにしようか。男子にモテモテよ」

「須巻氏、いい加減。そのふざけた体質をなんとかしたほうがいいんじゃないですか? そもそも僕はTSがそんなに好きではないと何度言ったら……」
「君の挑戦にはいたく感動している。まさか異性の気持ちを理解するために異性になるとは恐れ入った。これからもぜひ私にご指導、ご鞭撻のほど」

「きゃはははは。ツインテール! そういっちゃん。かわいい!」
「……聡一くん。これ……今日のお弁当」
「よっしゃ。聡一! 今日こそ悪魔呼び出そうぜ!」

「もう勘弁してください。というかさっさと終われよこんな物語。ちくしょおおおおおおおおお!」

 俺は吠えた。魂の底から。

 (俺が学園のアイドルになるのはこれまた別の話である まる)



― 完 ―

 


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テーマ:短編小説 - ジャンル:小説・文学

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