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都市伝説『スク水幼女』
「マジ、まじこの目で見たんだってば!」

 夏もそろそろ終わりに近づいた8月のある日。
 いつものように仲間達と深夜のコンビニ前でチュッパチャップスをチロチロと舐めていたらそのうちの一人が突然、おかしなことを語り始めた。
 最初は俺も、いつものチュッパチャップスの舐めすぎによる幻覚症状かと疑ったが、どうやらそうではないらしい。

「オマエ、またチュッパチャップスにヤラレたんじゃね?」
「1日100本も舐めてりゃそりゃ変なモノもみるわな」
「ちげぇーって! マジ、モノホン! 俺だって幻覚ならむしろそっちのほうがありがたいぐらいだぜ!」
「……」

 幻覚を見ることに定評のあるソイツが言うのだから、多少なりとも信憑性はあるのかもしれないと、否定を続ける他の仲間達を無視して、俺は冷静にソイツの話を聞いてみることにした。

「で、もう一度正確にその見たモノの正体を言ってみろよ」
「おお! たけしはやっぱ分かるヤツだな! 俺はオマエなら絶対信じてくれっ――」
「戯れ言はいいんだよ。さっさとしゃべれ」
「……ひ、わ、分かったからそんなに怒らないでくれ、オマエ顔超こえぇよ」
「この顔は生まれつきだ」

 で、ソイツが言うには――

「スク水幼女」
「……」

 その単語を出した途端、さっきまで冗談交じりに笑い合っていた仲間達も急に静まりかえった。
 それほど、この街ではその単語はタブーとされているということだ。
 ましてや、今の時代、スク水なんてものは古代の産物でしかなく、それ自体がすでにこの世に存在しないものなのにそれを身にまとった幼女が、目の前に現れたというのだ。
 そんなものを目にする時点でまずおかしいことに誰もが気付くだろう。
 だからこそ、みんなほんとは心の中で恐怖していたのだ。それを隠すためにみんな必死で否定し続けている。認めた時点で自分にも見えてしまうかもしれないという恐怖に抗うために。

「ば、バカか? すすす、スク水幼女なんて都市伝説に決まってんだろ?」
「そ、そそうだよ。そんなものいるはずないじゃないか」
「あぁ、俺だってそう信じたい。いやむしろ今でも信じられない。あんなものをこの目で見ちまうなんて、くそ……たけし、俺死ぬのかな?」
「……」

 いつもの楽しいダベリの時間のはずが、ソイツのせいで一気に萎えムードだ。
 これじゃあ、いくらチュッパチャップスを舐めたところで気分は高揚しない。
 こうなったら、この気分を害した原因を潰すしか方法はない。
 俺はおもむろに口にくわえていたチュッパチャップスをキュポンという音を立てて取り外すと仲間達にこう言った。

「よし、そのスク水幼女ってのがほんとにいるかどうか確かめに行くか」
「っ!?」
「な、なに、言ってんだよたけし! まなぶの言うこと聞いてなかったのかよ!」
「そ、そそうだよ。幻覚マスターのまなぶが本物だって言うんだから、きっと実在するんだよ」

 さっきまで散々否定していたくせにコイツらは……。
 まぁ期待しちゃいなかったが、まだ自分の目で確かめていないモノにびびる程度のヤツなら連れて行かない方がマシだ。
 かえって邪魔になりかねないしな。

「じゃあ、俺一人で行ってくるわ。おい、まなぶ。そのスク水幼女が出たっていう場所を教えろ」
「で、でも……たけし」
「さっさと言え、俺はそこまで気が長いほうじゃないんだ」
「わ、わかったよ。そんなコワイ顔すんなよ」
「だからこの顔は生まれつきだと何度言ったら……」

 まなぶに聞いた場所は、案外近くにあった。
 ビビりながらチュッパチャップスを舐め続ける仲間達をコンビニに残して、俺は一人その場所へ向った。
 夜も遅いので、出会う人影は一切なし。
 俺の歩く足音だけがやけに響いて不気味だった。
 あまりにも静かすぎてキーンと鳴る耳の奥に苛立ちを覚えながら目的の場所にたどり着く。

「ここか……」

 鬱蒼と生い茂る雑草。
 もう何十年……いや何百年も手入れされていないと思わせるほどの荒れ地ぶりに多少は恐怖を覚えつつも俺はその場所をじっくりと見渡した。
 昼間見たら特になんてことはない。ただのプールの跡地だ。
 だが、こんな夜も更けてから見るソコは、確かにまなぶの言うように何かがいそうで不気味だった。
 幽霊? いやそんな実体があるのかないのかわからないものに出会ってもただ恐怖だけが残るだけでそんなのは遊園地のお化け屋敷で体験する感情となんら変わりはない。
 たけしが見たというスク水幼女のほうがそんな幽霊なんかより遙かに恐ろしいモノだってことは俺だって重々承知している。
 理解できない怖さより理解できる怖さの方が人間にはダメージが大きいのだ。
 まなぶだってきっとそうだったに違いない。あるはずないと思っていたモノが突然現れたのだ。
 幻覚では味わうことの出来ない感情の起伏。恐怖以上の何かをまなぶはきっと感じたに違いない。
 それを少しでも和らげてやるには俺が証明するしかないのだ。

「スク水幼女なんてモノがただの都市伝説だってことをな!」

 背中を伝う汗に嫌な感触を覚えつつも俺は恐怖を振り払うために叫んだ。
 すると、どこからともなくシュコーシュコーとまるで何かの穴を水が通り過ぎるような嫌な音が聞こえてきた。

「な、なんの音だ」

 もちろん振り返ったところで何もいない。
 それどころか、辺りをくまなく見渡してもそれらしき人影すら見えなかった。
 でも、その音は常に自分の耳の奥から響いてくるのだ。
 そう、それこそまるでスク水の排水機構から流れ出る水の音みたいに。

「く、くそ、なんて気持ちの悪い音だ。誰かのイタズラか? だとしたらタダじゃすまさねぇぞ」

 俺は必死に草をかき分けて音の鳴る物体を探した。
 あまりにも必死だったのでそこがプールの跡地だったことも忘れて俺はその段差に気付かず、足を滑らせてプールの中へと落ちてしまった。
 そこは本来なら大量の水が張られていて、こんな暑い夏の夜ならきっと涼しいこと間違いなしの場所だったが、あいにく今はただの荒れ地。もちろん水なんて張られてるわけもなく、ただの堅い地面に派手に尻餅をついたのだった。

「いってぇー、ちくしょお。なんで俺がこんなめに」

 立ち上がってみると、思ったより深かったのか、それとも暗闇と生い茂る雑草のせいでそう見えるのか、さっき転げ落ちてきた場所がやけに遠かった。
 これは下手するとここから上がるのさえ難しいかもしれないとそう思わせるには十分な高さだった。
 ひとまず、俺はプールの中を適当に歩き回り、どこか上に上がれそうな場所を探すも、どこも雑草のせいでつかみ所がなく、上に上がるには困難を極めていた。

「仕方ない。ここは癪だがアイツらに電話して助けてもらうか……」

 ポケットから携帯電話を取りだして、仲間の一人に電話をかけてみる。
 プルルルル、プルルルル、プルルルル。
 三回のコールのあと、受話可能の状態になった。
 俺はすかさず――

「おい? ちょっとヘマしちまって、身動きがとれねぇようになったんだが、オマエらのうちの誰でもイイからロープかなんか持ってこっちへ来てくれねぇか?」
「……」

 やけに長い沈黙。
 もしかして繋がっていないのか? ともう一度電話に向って話しかける。

「おい? 誰でもイイから、ロープか何かを……」
「シュコー」
「っ!?」
「シュコーシュコー」

 俺は慌てて携帯から手を離した。
 そういや、プールに落ちてからはあの嫌な音はしなくなったなと油断していたら、コレだ。
 一体どうなってやがる。俺はもう一度携帯のディスプレイを確認する。
 そこにはしっかりと仲間内の一人の番号が表示されていた。
 間違い電話でもなんでもないことは明らかだった。

「オマエらふざけてんならいい加減にしないと、俺も穏やかじゃいられねぇぞ」
「シュコーシュコー」

 そう、脅してみても矢張り聞こえるのはあの嫌な音。
 俺はその音をこれ以上聞くのに耐えきれなくなって電話を切った。
 これでここから脱出する算段を一つ失ったわけだ。

「さて、どうするか」

 ここに来てもう一度冷静さを取り戻すべく、俺は予備のチュッパチャップスに手をつけていた。
 袋を丁寧に破り、口にくわえる。ほどなくしてちゅぱちゅぱと心地よい音が口内から耳の奥を伝って響いてきた。

「あぁ、最高だ。この音、とろけちまいそうだ」

 軽くエレクチオンしたところで、もう一度プールの中を散策する。
 やはりどこからも自分で上がることは不可能なようだ。
 これは朝までここで助けを待つしかないのかと諦めかけたその時、何かキラリと光モノが目に飛び込んできた。

「ライトか! もしやここの管理者の見回りとかか? なんでもいい。これで助かった!」

 俺はその光があるほうへ向って全速力で走った。
 そして光が近づいてきた頃合いを見計らって俺は大声で叫んだ。

「おおーい! 助けてくれ-! ちょっと足をすべらしちまって、プールにおっこちまったんだ!」

 俺の声が届いたのか、光がまっすぐこっちに向って進んでくるのか分かった。
 これで助かる。ははは、やっぱ何にもいなかったじゃないか。
 まなぶのやつバカにしやがって、まぁアイツの幻覚症状は今に始まった事じゃないしな。
 これに懲りて、少しチュッパチャップスの本数を無理矢理減らしてやろう。
 うん、いい機会だ。俺がもう一度ヤツにキツく――

「大丈夫ですか、お兄ちゃん」
「あぁ、すまねぇたすかっ――ぎやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 そこには間違いなく、スク水を身にまとった幼女が俺を見下ろすようにして立っていた。
 そして、俺の意識はそこで途切れた――
 気付いたときには病院のベッドにいて、俺はその時にあったことをスッカリ忘れてしまっていた。
 これはあとから仲間に聞いた話なんだが、俺は水も何も張られていないプールの中でびしょ濡れになって倒れており、周りには何者かが食べ散らかしたと思われるチュッパチャップスの残骸が転がっていたという。
 俺はそれを聞いて背筋にゾォーっとするようなものを感じ、それ以上深く考えるのはやめることにした。
 それ以来、俺たちの中でその話題を口にする者はいなくなった。
 もしかしたら、また別の街で騒動を起こしているのかもしれない。
 
 そう、もしかしたら貴方の街にもスク水幼女が……。



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テーマ:ホラー・怪談 - ジャンル:小説・文学

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