Blogまうまう
生きてるうちに言いたいことを言っておく
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
都市伝説『スク水メリーさん』
 誰かに見られているような錯覚。
 いるはずのないものがいる。
 ないはずのものがある。
 そんな得たいの知れない恐怖に俺はとりつかれていた。
 はやくこの状況から解放されたい。今すぐ楽になりたい。
 そもそもなぜこんなことになってしまったのか。

 俺がこうなってしまったのには原因がある。それは友人の些細なイタズラから始まった―――

 バイトが終わりアパートに戻ってきた俺は一服しようとたばこに火をつけたところだった。
 突然部屋の電話が鳴ったので慌ててさっき火をつけたばかりのたばこを灰皿に置くと、受話器をとった。

「もしもし?」
「……」

 数秒ぐらい待っただろうか、一向に相手からの反応がなく、俺は間違い電話か何かだろうと思って、特に何も言わずにこっちから電話を切った。
 俺は再びさきほどのたばこを灰皿から手に戻すと、口に当て、一服吸った。
 肺の中に満たされる満足感。一仕事終えたという安堵感。やはり仕事終わりの部屋での一服は格別だった。
 これを吸いきったら、今日はシャワーを浴びてそのまま寝るとしよう。
 時計の針はちょうど夜中の二時を指していた。

 シャワーを浴びてスッキリした俺は半裸姿のままで部屋に布団を敷く作業を開始した。
 と同時に再び電話が鳴り響いた。
 さっきと同じ奴か? と思いながらも俺はとりあえず受話器をあげた。

「もしもし?」
「……」

 返事がない。
 さすがに二回目なので俺はもう一度だけ問いかけることにした。
 もしかしたら相手側のほうで俺の声が聞きとりにくいのかもしれないと思って。

「もしもし? 聞こえますか?」
「……私メリーさん、今八坂駅にいるの」

 プツン、ツーツー。
 一瞬背筋に冷たいものが走る。
 そういや半裸のままだった。
 俺はとりあえず手短にあった服に着替えると、さっきの電話のことを考えた。
 最近のイタズラ電話にしてはかなり古い手法だな。

 メリーさん。
 誰もが一度は聞いたことあるだろうが、メリーさんは電話をかけてくるたびに相手への距離を着実に縮めてくる謎の存在だ。
 で、最後には必ず相手の背後にいるという電話が掛かってきて、相手を恐怖のどん底へ陥れるというものだ。

 実際にメリーさんなんて存在を見た者はいないが、かといっていないとも言い切れないぐらい有名な名前だ。
 都市伝説としてもかなりメジャーな部類に入っていると思う。
 電話を使うという意味でもイタズラにはもってこいだしな。

 というわけで俺は多少驚きはしたものの、そのまま再び寝る準備を整えた。
 電気を消して、さぁ寝るぞと布団に潜った瞬間、電話が鳴った。

「……」

 さすがに三回目ともなると、こちらが先に口を開くのも癪なので黙って受話器を耳に当てた。
 しばらく相手側も無言だったが、かすかに息づかいが聞こえる。
 俺はそのまま数秒無言で待ってみた、すると――

「……私メリーさん、今玄関の前にいるの」
「っ!?」

 これには心底ビビった俺は叩きつけるように受話器を置くと、部屋中の明かりという明かりををつけて、テレビもつけ、音量も最大にして、布団を頭までかぶりその中に潜り込んだ。
 なんだこれは? イタズラにしては度が過ぎてるんじゃないのか?
 と奥歯をガチガチ鳴らしながら震えていると、四度目のコール音が鳴り響いた。

「ぎやあああああああああああああああああああ!」

 俺はあまりのことに絶叫しそのまま勢いで布団を飛び出し玄関に向ってまっすぐ駆けだし、そして――

 ガチャ。

「よっ! のぶ。私メリーさ……ぶっ!」
「――!?」

 とりあえずぶん殴った。

「ってぇ、何もそこまで怒ることないじゃんかよ……つか普通客人をいきなり殴るか」
「自業自得だろ」

 さっきからのイタズラ電話はこいつの仕業だった。
 久しぶりに顔を見せにきたと思ったら、これだ。
 つい勢いで文句よりも先に手が出てしまったが、そんなことはお構いなしと図々しく人の家に勝手に上がり込み、すでにくつろぎモードになっていた。

「お前も一本どうだ?」
「……」

 コンビニかどこかに寄ってからきたのか、ぱんぱんのビニール袋が傍に置いてあった。
 俺はソレを見てもはや怒る気も失せたので、ソイツを無視して今度こそ寝る体勢に入った。

「じゅるり、ちゅぱ、んむぅ……ぺろぺろ、あむ……じゅるじゅる……れろ」

 ……。

「んんぅ、れろれろ……じゅるり、ちゅぱ、んむぅ…」

 ………。

「ちゅぱちゅぱ、れろ……ぶっ!」

 とりあえず殴った。

「おまっ、さっきから殴りすぎだろ。俺が一体何したってんだよ」
「いい加減にしろ、ここは俺の部屋だ」
「だから?」
「カエレ」

 と言って素直に帰る奴ではないことはわかっていたが、バイトで疲れていた俺はもはや限界だったのだ。
 「まぁまぁ、落ち着けよのぶ」とか言いながら俺をなだめてくるソイツを無視して、トイレにたった。
 戻ってくる頃には奴の姿がなければいいなぁと思ったが、案の定ソイツはまだそこにいた。

「こうやって音を立てながら舐めるのが好きなんだよ俺」
「男のチュパ音なんか聞かされる俺の身にもなってみろ、キモくて眠気なんてふっとんじまったよ」

 チュッパチャップス片手に自分流のおいしい舐め方を懇切丁寧に説明してくる友人に若干引きつつも、ここで改めてコイツが俺の家に来た理由を問いただした。

「で、なんか用かよ?」
「いや特別用ってほどのことでもないんだが……」

 頭をかきながら所在なげに視線を泳がすソイツにイライラしたが、ここで殴ったらまた話が振り出しに戻り無限ループになりかねないので我慢した。

「お前、メリーさんの噂知ってるか?」

 やっと確信に迫ったかと思ったら、何のことはない、俺にかけてきたイタズラ電話の話か。

「知ってるけど、お前まさかこの期に及んでまだ俺をからかおうってんじゃないだろうな」
「ち、ちげぇよ。確かにさっきの電話はちょい悪ノリが過ぎたよ。まさかお前があそこまでビビるとは思わなかったからよ」

 申し訳なさそうに俺から顔を背けながら新しいチュッパチャップスに手を伸ばす。
 袋を丁寧に破いて口に含むと真剣な表情でソイツは言った。

「スク水メリーさん」
「っ!?」

 俺の背筋をこれまで感じたことのない強烈な寒気が襲う。
 よもやそんな単語をこの場で聞こうとは誰が予想しただろうか。
 今や忘れ去られた……いや、初めからなかったかのように扱われるスク水というモノの存在。
 俺もネットの裏サイトでチラリとしか見たことのない産物だ。
 よくできたコラかあるいわ誰かの作り物というのが通説で、実際にスク水なんてモノを間近で見た人物は未だかつていない。
 だから科学が進歩した現代でも都市伝説としてスク水は年齢を問わず世の中を席巻している。
 例に漏れず俺も友人もその中の一人ということだ。

「お、お前まさか、そのメリーさんがスク水を着てるなんて馬鹿げたこと言うんじゃないだろうな。はっ! そんな根も葉もない噂、誰が信じる……」
「……」

 普段おちゃらけた態度なだけに、俺の反応に対し無言でチュッパチャップスを舐め続けるソイツの姿が異様な光景として目に映った。
 俺はゴクリと喉を鳴らして、あくまで平静だという風な態度を装ってもう一度問いただした。

「そ、それでそのスク水メリーさんとやらに気をつけろと注意しにきたわけか、それもこんな夜中にわざわざ」
「……」

 俺の問いに一向に答えようとしないソイツにいよいよ腹を立てた俺は拳を握りしめ、三度目の鉄槌を下そうと、腕を振り上げた。

「ちょ、ちょ待てよ! お前がうるさいっていうからなるべく静かに舐めてたのに何殴ろうとしてんだよ!」
「……」

 そうか、コイツはそういうやつだった。
 話の途中でチュッパチャップスを舐めるのに真剣になるあまり俺の声はまったく届いてなかったのだ。
 さっきまでの張り詰めた空気が馬鹿みたいに弛緩して、俺はその場にどっしりと腰を下ろし何気なくソイツの傍にあったビニール袋の中を覗き込んだ。

「おま、これ全部チュッパチャップスかよ。一体何本買い込んで……」
「百本だ。お前も一本イっとく?」
「カエレ」

 真性のバカだった。

 朝目が覚めると、友人はいつの間にかいなくなっていた。
 食い散らかすだけ食い散らかして、何も言わずに帰る。
 奴がくるまでは正常だった俺の部屋は今じゃチュッパチャップスの残骸でいっぱいだった。

「百本、全部食べていきやがった……」

 論点が多少ズレたが、まさかアレを一人ですべて食いきるとは俺も予想外だったのだ。
 ここで怒ってももはや無意味と判断し、無言で残骸を片付けていると、なにやらテーブルの上にメモらしきものが置いてあるのが確認できた。
 それを拾い上げて軽く目を通してみる、そこには――

『昨日はいきなり訪れて悪かった。それにイタズラ電話をしたのも。でもスク水メリーさんの話は少しでもいいから気にとめていてほしい。最近俺の周りでもよくない噂が飛び交ってるので、一言いっておきたかったんだ。もしお前に何かあったら俺は……。それより今度俺のおごりでチュパバー行こうぜ! あそこはいいぞ、なんせチュッパチャップスが食べ放題だ。軽くトリップしてる奴なんかもいて見てるだけでも楽しいと思うぞ。気が向いたら電話くれよ。まぁ電話がなくてもまたそっちへ遊びに行くけどな♪ あ、そうそう。棚にお前の分のチュッパチャップスを入れておいた。好きなときに食べてくれ。 ひろより』

 キモいメモがあった。
 男にしては可愛げな丸文字でつらつらと綴られたソレを俺はばっちいものでも触るかのように摘み、そのままゴミ箱へシュートした。
 さっき片付けたチュッパチャップスの残骸とともに大きめの袋に詰めて、玄関を出る。
朝の陽光が俺の閉じきった瞼をこじ開けるように差し込んだ。
 近くのゴミ置き場に袋を置いて部屋に戻り、シャワーを浴びて着替えると俺は再び出かける準備をした。
 今日もバイトだ。帰りは昨日と同じぐらいになるだろう。
 そう思うとなんだが憂鬱だったが、生活のためだがんばろうと自分を鼓舞して玄関の鍵を閉めた。

「いらっしゃいませ」

 いつものごとくコンビニでレジを打ちながら昨日のことを思い浮かべる。
 久しぶりに顔を見せたと思ったら、人の部屋を荒らすだけ荒らして去っていった友のことを。
 でもひろが無意味に俺をところへ来ることは一度もなかった。
 俺が何かに悩んでいる時や、不安でたまらない時、いつも決まって奴がふざけたことを言いながら俺の元へやってくる。
 そんなにひろに表では悪態をつきつつも、どこかで感謝している自分がいるのも確かだった。
 まぁもっとも、面と向って感謝の意を述べたことは今まで一度もないが。

「ありがとうございました」

 にしてもスク水メリーさんか。
 これまた突拍子もない噂話だ。
 何度も言うがスク水なんてモノは本来この世には存在せず、ましてやそれをあのメリーさんが着ているなんてちゃんちゃらおかしな話だった。
 存在しないモノを存在しない者が着ている。
 下手な怪談話よりよっぽど質が悪い。B級とすら呼べない。
 そんな話一体誰が信じるというのか。
 バイトに没頭してるうちにいつのまにかその話は頭の隅へと追いやられたのだった。

「……疲れた」

 昨日よりも遅い時間に帰宅した俺はそのままシャワーも浴びずに布団へダイブした。
 このまま寝てしまおうと、心地よいまどろみの中へ埋没しようとしかけたその時、電話のコール音が鳴り響いた。

「はい、もしもし……」
「……ん」

 なんとか受話器をとったが、まだ意識は朦朧としていた。
 かすかに相手が何かを言っているようだが、うまく聞き取れない。
 俺はもう一度問いかけた。

「もしもし? どちら様でしょうか?」
「……私、メリーさん。今ブルセラショップにいるの」

 夢の中へ沈みかけた意識が一気に現実へ引き戻される感覚。
 それとともに押し寄せる怒りの波。
 懲りずにまたイタズラ電話をしてきた相手に対し、俺は怒鳴り散らそうと息を大きく吸い込んだ。

 ガチャ、ツーツー。

 と同時に向こうから一方的に電話を切られて怒鳴るタイミングを見失った。
 けれど、俺の意識はそれで完全に覚醒し、もう一度掛かってくるであろう電話に備えて電話機の前で待機した。

 プルルルルル――

 やはりきた。

「てめぇ! ふざけんのも大概にしろよ! さすがの俺でも昨日今日で同じイタズラに騙されるわけねぇだろ!」
「……」

 受話器をとったと同時に叫んでやったので今度は向こうが驚いてるはずだ。
 俺はしてやったりという顔で受話器を握りしめ、相手の反応を伺った。
 しばらく無言だったが、やがて意を決したのか息を吸い込む音が聞こえた。

「……私、メリーさん。今そこでスク水を買ったの」

 ガチャン、ツーツー。

 ふざけるなよ。
 ひろのやつ何考えてやがんだ。
 この期に及んでまだバレてないとでも思ってるのか? しかも昨日自ら語ったスク水メリーさんのマネまでしてやがる。
 イタズラにしては度が過ぎてる。
 もし次に電話が掛かってきたら今度こそ問いただしてやる。

 そして、俺は臨戦態勢を整えて三度目の電話を待った。
 時計の針の動く音がやたら大きく聞こえる。
 俺の心臓もさっきからずっと警笛を鳴らしている。
 馬鹿な、そんなはずはない。これはひろのイタズラだ。
 そう自分に言い聞かせつつも得たいの知れない恐怖に包み込まれていくのを感じた。
 どっちにしろ、次の電話ではっきりさせるのだ。

 やけに長い時間が過ぎたように思う。
 けれど、電話は一向に鳴る気配を見せない。
 やっぱりイタズラだったんだ。さっき俺が怒鳴ったせいでひろは電話をかけずらくなったんだ。
 ざまぁみろだ。
 俺は晴れやかな心で、電話機の前を離れると、いつものようにたばこを取り出し、一服しようとたばこに火をつけた。

 ブブブブブブブブ

 と同時にどこかで激しく振動する何かの音が聞こえる。
 俺は乱暴にたばこを灰皿におしつけると、その振動音の元を探り出した。
 それは俺の携帯だった。着信相手の名前はひろ。
 ほらみろ、家にかけるのが怖くなって、今度は携帯にかけてきやがった。
 どうせ、謝罪の電話だろう。そう簡単に許すつもりもないが、一応弁解だけでも聞いてやるかと受話を許可した。

「もしもし、のぶか?」
「あぁ、俺だ。お前のイタズラのおかげですっかりご立腹の俺だ」

 いつになく不機嫌さを隠さない俺の声に若干の戸惑いを覚えたのか、ひろは真剣な声で謝ってきた。

「昨日のことまだ怒ってんのかよ。悪かったって。今度お礼になんかおごるからさ。それで勘弁してくれよ」

 何を言ってるんだコイツは。
 俺はさっきの電話のことを言ってるのに、昨日のことだと?
 ふざけるなよ。
 俺は再び怒りを露わにした怒声で話し返した。

「ば、ちげぇよ! お前さっきも昨日と同じ電話かけてきただろうが! ふざけんのも大概にしろよ。さすがの俺でも何度も同じことされると、ブチギレるぞ!」
「おいおい待てって。さっきっていつの話だよ!? 俺は今日たった今お前に電話かけたばっかだぞ。それに家に電話かけた覚えはないし。これ、お前の携帯だよな?」
「……え」

 あやうく携帯を落としかけて、はっとなる。
 今コイツはなんて言った? 電話をかけてない?
 いや違う、かけたのは今だ。しかも携帯に。
 じゃあなんだ、さっきの電話はひろじゃないってことか?
 そんなこと……まさかあるわけ……

 とそこで、家の電話が鳴り響く。

「ひっ!」
「おい? どうした、のぶ? 聞こえてるか?」

 圧倒的な恐怖が俺を襲う。
 今俺は携帯でひろと話をしている。じゃあ今こうして家の電話がかかってるのはどういうことだ?
 少なくとも相手はひろじゃないことは確かだ。
 では一体誰が俺に電話をかけてきている。さっきのイタズラ電話と同じ奴か?
 同じ奴だとしたらひろと同じぐらい馬鹿な脳みそをした奴だ。
 今時そんな幼稚なイタズラにひっかかる人間なんて存在しない。
 メリーさんなんていないんだ。それにスク水だって存在しない。
 まったく馬鹿げた話じゃないか、俺が勝手に勘違いして、話をややこしくしてるだけ。
 そうだ、きっとそうだ。そうじゃなきゃこんな意味不明なことは起こらない。
 確かめるんだ。確かめて今度こそはっきりさせてやる。
 そして俺にそんな電話をかけてきたことを後悔させてやるんだ。

 俺は受話器をとった。

「もしもし?」
「……私メリーさん、今スク水に着替えているの」
「二度とかけてくるな! 誰か知らんが、次かけてきたら声を録音して出るところ出てやるから覚悟しておけよ」

 俺は冷ややかにそう告げると電話を切ろうと、受話器を耳からはずした。
 その途中かすかに女の笑い声が聞こえたが、気のせいにしてそのまま受話器を置いた。

「おい? おい、のぶどうした! なんか怒鳴ったみたいだが……返事をしろ!」
「あ、あぁ……すまん。俺の勘違いだった。お前は悪くないよお前は……」

 再び携帯を手にすると穏やかな声でひろに話しかけていた。
 額に変な汗をかきつつもこれでもう電話はかかってこないだろうと安堵し、しばし我が友人の戯言に付き合ってやろうと決めた。

「さっきそっちの電話鳴ってたみたいだけど、誰だったんだ?」
「大したことない。ただの間違い電話だ。気にするな。それよりお前あのチュッパチャップスなんとかしろよ。俺一人で食える量じゃねぇよ。それに俺チュッパチャップスそんなに好きじゃねぇし……」
「はぁ? 何言ってるんだ、のぶ。あんなにうまいものが好きじゃねぇだと。それはお前の舌がおかしいんだよ。だいたいなぁ……」

 誤魔化す必要があったのかどうかわからないが、俺は無意識にひろを心配させまいとして咄嗟に嘘をついた。
 怪しまれないように違う話題を振って、いつものチュッパチャップス談義にもっていったところで俺はやっと心を落ち着かせることができた。
 しばらくそうやって他愛のない会話を楽しんだ後、ひろとの電話でのやりとりを終了し、俺は汗でべとべとになった服を脱ぎ捨て、シャワーを浴びた。
 サッパリしたところでたばこで一服しようとも思ったが、なぜかそんな気分にはなれず、俺はボーッと部屋の電話を見つめていた。
 もしここでまたあの電話がかかってきたらどうしよう。
 さっきは訴えるとかなんとか脅しを言ったが、相手の声を録音したからってそう簡単に訴えることはできないだろう。ましてや声だけでどこの誰がこんなことをしてきているのか分かるはずもなく、何の意味もないことは火を見るより明らかだった。
 だから俺はこのイタズラ電話から解放されるための最も単純な手段をとることにした。

「……電話線」

 そう、これさえはずしておけばもう電話はかかってこない。
 どうせ携帯があるんだ。緊急の用事なんかはこっちにかかってくる。
 それに家の電話にかけてくる奴なんて家族以外にそうそういないし、たった一日や二日電話が繋がらなくても不便はないだろう。
 というわけで俺は電話線を引っこ抜いた。

「よし、これで安心だ」

 やっと奇妙な不安と恐怖から解放された俺は布団の上に大の字に寝っ転がる。
 ひろがあんなイタズラをしなければ俺もここまで神経質にならなくて済んだのだ。
 やっぱりあいつのせいだな、うんそうだ。変な噂話までふっかけてきやがって。

「スク水なんてあるわけねぇっつの、はは」

 と笑いが込み上げてきた。

 プルルルルルルルル

 っ!?――

 プルルルルルルルル

 一瞬何が起こったのか理解できなかった。
 込み上げた笑いは一気に引きつり、代わりにえずくような声が喉の奥から漏れ出る。
 意味がわからない。だってさっき電話線は抜いた。
 だから今電話が鳴るはずなんてないのだ。なのになんだこの状況は、なぜ電話が鳴っている?

 プルルルルルルルル

 まるでこの世のものではないものを見るかのように俺は部屋の電話を凝視する。
 視線を電話線のほうにもっていくが、幻覚じゃない、完全に線は途切れている。
 なのに、電話はこれでもかというほど自己主張の激しい音を響かせる。
 出たらダメだ。これは出たらダメな類の電話だ。でもまさかそんなことあるわけ――

「も、もし…もし…?」

 確かめずにはいられなかった。
 出たらダメと分かりつつも確かめなければ正気を保てそうになかった。
 だから俺は電話にでた。受話器を握りしめて相手が誰なのかを確認する。
 そう、たったそれだけでいい。それではっきりさせるんだ。これは何かの間違いなんだって……。

「私、メリーさん。今坂下公園にいるの」

 ガチャン!
 今までよりもはっきりとした女の声。
 しかもかなり近い。坂下公園なんてアパートからすぐそこじゃないか。
 なんだコレハ? 新手のドッキリカ? 俺は今部屋にしかけられた隠しカメラか何かに撮られているのか?
 それならそうと、はやくネタばらししてくれ。
 頭がどうにかなりそうだ。

「はぁはぁ……そうだ、確かめなきゃ……」

 混濁した意識の中で、俺は今自分がすべき最善の方法をとるため、震える手で私服に着替える。
 そうだ、もし本当にこの電話の相手があのメリーさんならもう一度電話をかけてくる。
 それに出てしまったら今度こそ終わりだ。自分の背後に音もなく現れたメリーさんに俺は――

「はやく、はやく、確かめなきゃ……」

 ふらついた足で玄関を出る。ひんやりと冷たい空気が肌を刺す。
 公園にはたしか、いまだに撤去されていない古い公衆電話があった。
 きっとそこからかけてきたに違いない。そうだ、確かめるんだ。メリーさんより先に俺がメリーさんを確かめるんだ。

 吐きそうな気配を無理矢理押し込めながら、公園に向ってひたすら歩を進める。
 夜も深まった頃なので、人影なんてあるはずもなく、いるとすれば恐怖に引きつった顔した俺か、すがすがしい顔で俺に嫌がらせをするまだ見ぬメリーさんか。
 どっちにしろ、発見次第ぶん殴る。
 俺をここまでこけにした奴を見つけ次第殴る。それでこんな意味不明な状況にケリをつけてやるんだ。
 待ってろメリーさん。今すぐそこへいってやる。お前が来る前に俺が――

「……」

 公園にたどり着いた。
 辺りを見渡すが人っ子一人見つからない。
 そうだ、あの公衆電話はどこだ? 確か公園の隅の方に……あった。
 俺はゆっくりとその公衆電話のほうへ近づいていく。
 だがそこにはぽつんと古びた公衆電話が一台無造作に残されているだけだった。

「誰もいない……?」

 もう俺の家に向ったのか?
 だとしたらここに来るまでにすれ違っているはず。
 ということはまだこの公園のどこかに潜んでいるということだ。

「出てこいよ!!」

 俺は叫んだ。
 今更怖じ気づく俺ではない。こうなったら相手の姿を確認するまで俺はここを一歩も動かない。
 そう決めて、公園のどこかに隠れているであろうメリーさんに向って怒鳴りつけた。

「どこのどいつか知らないが、いい度胸してやがる。一体俺に何の恨みがあってあんな電話をかけてきやがった。まぁもっとも今更謝っても許す気はさらさらないがな。さぁ分かったら大人しく姿を――」

 リリリリリリリン

 ありえない音に後ろを振り返る。
 一体何の冗談だこれは。
 ここは公園だぞ。電話の音なんて聞こえるはずないじゃないか。

 リリリリリリリン

 でも確かにソレは鳴っている。
 俺の目に映るソレはまるで全盛期の頃のようにけたたましい音を高らかに歌い上げている。

「嘘だろ、おい……はは、なんだよこれ。わ、わけ……わかんねぇよ……」

 ソレは間違いなく今はもう誰も使いそうにない古ぼけた公衆電話だった。
 恐る恐る近づきながら、俺はその公衆電話を隅々まで確かめる。
 そして俺はそこで恐ろしい事実に気がついてしまった。

「こ、これ、電話線千切れて――」

 リリリリリリリリン
 リリリリリリリリン
 リリリリリリリリン

 ダメだ、足が動かない。あまりの恐怖で俺はその場からまったく身動きができなかった。
 まるで金縛りにでもあったかのように、意識ははっきりしているのに体だけが言うことを聞かない。
 かすかに右腕だけが動く、でも腕が動くからってこの状況は変わらない。
 そうだ、俺はもう逃げられない。得体の知れないものに目をつけられて訳もわからないうちにこんなことに。
 もう嫌だ。はやく楽になりたい。今この瞬間何者かに襲われて死んでしまえるならいっそそうなってほしいと願うぐらい俺はパニック状態に陥っていた。

 だから、俺がソレに手を伸ばしたのも当然と言えば当然のことだった。

「も、もしもし?」

 鉄の錆びた臭いが鼻をくすぐる。
 もう何十年も使われていないであろうソレを耳に当てて最後の審判を待つ。
 次に返って来るであろう返答は分かりきっていた。だから俺はソレを耳から外し、ゆっくりと首を後ろにまげて――

「私、メリーさん。今、貴方の目の前にいるの」
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 叫び声を上げたと同時に俺の体に自由が戻り、俺は慌ててその場から逃げ出した。
 逃げ出す時、目に飛び込んできた映像はとても人には言えそうにないショッキングなものだった。

 だって俺が見たのはまごう事なきスク水――。

 そう――胸にひらがなで『めり~さん』と書かれた名札を貼り付けたスク水の少女だったのだから。

「――次はお兄ちゃんのところにいくから」



↓気に入ったら押してね♪
お、押すのか?

スポンサーサイト

テーマ:ホラー・怪談 - ジャンル:小説・文学

トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
copyright © 2008 yonnnana all rights reserved.
Powered by FC2 blog. Template by F.Koshiba.
 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。