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都市伝説『スク水ドッペル』
 この世には自分と似た人物が三人はいると言われているが、蓋を開けてみればなんてことはない。そのどれもが他人の空似の一言で済んでしまうぐらい他愛のないものである。
 けれど、こと私に限って言うなればそれはそんな生やさしい結論では済まされないぐらい切羽つまったものだった。
 
 なぜなら私は本当に――私にうり二つの人物――しかもまさかあんな姿をした自分をこの目で見るなんて思ってもいなかったのだから。

「チュッパチャップス食べる?」
「……いらない。それに何度も言ってるけど、私ソレ嫌いだし」
「ふーん。こんなにおいしいのに。ちゅる……ちゅぱ……んむっ」

 特になんてことはない学校での日常風景。私はすぐ前の席のクラスメイトであるヤマンバもとい、毛ばい化粧をしたユカを見ながらため息をつく。
 こういう奴は見た目通り本気で頭の中がお気楽なんだろうなぁと思いながら、私は自分の現在の状況をひどく呪っていた。
 誰に相談しても「それ、ただの他人の空似でしょ」の一言で済まされてしまう私の悩みはもはや一人でどうにかするしかない現状に追い込まれていた。
 けれど、今ここにいる――このお気楽そうなユカにはまだあのことを話したことはなかった。最初から諦めていたのだ。こんな奴に相談してもきっと他のみんなと同じ回答が返ってくるか、あるいわそれよりひどい訳の分からないことを言われて笑いものにされるかのどっちかだと勝手に思い込んでいたのだ。
 でもそれももう、限界だった。私は意識したつもりはなかったがついポロっとユカの前で余計な一言を零してしまった。

「ねぇ、あんたってさぁ……自分とまったく同じ顔の人ってみたことある?」
「ふえ? ちゅぽん」

 ひどい馬鹿面だった。
 言ってしまってから私は自分で何を言ってるんだろうと後悔せずにはいられなかった。
 ユカは不思議そうな顔をして、手に持ったチュッパチャップスと私の顔を交互に見ながら、こう返してきた。

「あるよ。あれでしょ。ゲッペルドンガー」

 ドッペルゲンガーだ。矢張り馬鹿だった。でも――

「あんた、それ本気で信じてるの? ドッペルゲンガーがこの世にいるってほんとに……」
「え? いないの?」
「………………」

 さもいることが当然のように聞き返してくるユカの表情になぜか私はひどく安堵した。
 一番まともに話を聞いてくれないと思っていた……いや単に思い込んでいた人から一番ほしかった言葉を聞けて私は少しうるっときてしまったのだ。
 それだけ精神的に追い込まれていたのだろう。突然ポロポロと涙を零す私を見てユカはおろおろしながら言った。

「ご、ごめん。チュッパチャップスやっぱりほしかったよね?」
「…………ばか」

 真剣な顔で的外れなことを言うもんだから、私は思わず吹き出してしまった。泣きながら笑う私を他のクラスメイト達は不思議そうに見ていた。
 私はそのあとも必死にチュッパチャップスを勧めてくるユカをなんとかなだめながら気持ちを落ち着けた。
 放課後になって、私はユカを私の家に誘った。ユカは快くついてきてくれた。
 普段そんなに一緒に遊ぶほうではないけど、ユカは気にした風もなく笑顔で私のあとについてきていた。

「ねぇ、前から言おう言おうと思って黙ってたんだけど、あんたなんで今頃ヤマンバ……っ、そんな毛ばい化粧してんの?」
「ほえ? ちゅぷり」

 またしてもチュッパチャップスと私の顔を交互に見ながら馬鹿面をするユカに呆れながらも返答を待った。

「えっと……ゲッペルドンガーじゃなかった……ドッペルンゲンガーに会いたくないから……かな」
「え?」

 思わぬ一言に私は冗談でしょと笑い飛ばすこともできなかった。
 濃い化粧をすればドッペルゲンガーに会わないというまじないは聞いたことないけど、そうしてまでドッペルゲンガーに会いたくないというユカの気持ちは私にも理解できてしまったからだ。
 でもだからってやっぱりここまで濃い化粧は……。

「ん? 何、私の顔に何かついてる?」
「いえ、何も……」

 私には無理かな。さすがに。

 そうこうしてるうちに私の家に着いた。
 ユカを私の部屋に案内して、私は二人分の飲み物を取りにいった。
 その間にすっかりユカは元通りのユカになっていて、初めて入った私の部屋をさっそく漁っていた。

「こら、人の部屋勝手に漁るな」
「だって~、なんか初めての部屋って物色したくなるじゃん?」
「なってもしないで。いくら同性でも女の子の部屋あさるのは感心しないわ」

 ユカは「はーい」とおどけたような返事をして、私が持ってきたジュースにすぐ飛びついた。その姿はまるで汚れを知らないような子供みたいだった。見た目に反してすごく幼い。それ故にユカの危なげさが目立つように思えた。
 それにさっきの一言。もしかしてユカもドッペルゲンガーに会ったとでも言うのだろうか。

「ねぇ……話したくないなら別にいいんだけど、そのあんた、ドッペルゲンガーに会ったことあるの?」
「ないよ」

 即答だった。まるですべてを否定するかのように異常なほど早い回答だった。でもソレもつかの間、ユカはニタァと笑うと私の顔面すぐそこにまで顔を近づけて言ってきた。

「チュッパチャップス食べる?」
「…………」

 その迫力あるヤマンバ顔を無言でグイっと押し戻しながらため息をつく。やっぱりユカはユカだった。これ以上追求してもきっと大した情報も出てこないだろう。まぁでもユカがドッペルゲンガーを信じてることが分かっただけでも素晴らしい収穫だった。

 そのあとも二人でひたすらダベりながら過ごした。学校めんどいよねぇとか、誰々に彼氏できたとか、今度できるショッピングモールで新しい化粧品が発売するとか。自分たちぐらいの年齢の女性ならしそうな話をひたすら絶え間なくしていた。
 その間は私もあのことについては忘れられたので、良い気分転換にはなったと思う。

 そうしてしばらくはドッペルゲンガーのことも意識せずにいられるようになった。これもすべてユカのおかげだと思うと複雑な気分ではあったが、やはり少しはきちんと目に見える形で感謝しないといけないと思い、私はユカを誘って映画を見に行くことにした。

「うわー、私これ超みたかったやつだー! いいの? ほんとに……お金なら私も出すけど……」
「いいの。今日は私のおごり。ユカにおごりたいの。それとも何、私のおごりは受けれないって言うの?」
「ううん。ありがとう!」

 無邪気に抱きついてくるヤマンバを今日だけは無碍にできない。私は恥ずかしいのを我慢してそのまま抱きつかれたまま映画館へと入っていった。
 その映画はとてもシンプルな恋愛映画だった。身分の違う男女が駆け落ちして誰もいないところで二人一緒になろうと奮闘する話だが、狙ったようにことごとく邪魔が入る。最後には結局女の人が両親に連れ戻されて男の人が謂われもない罪を着せられて牢屋にぶちこまれるという悲惨な最期だった。
 けれど、なぜか私の隣に座ってるユカは始終泣きっぱなし。ほんとこの子の感性は一体どうなってるのかわからない。
 まぁ少なくとも楽しんでもらえてることは確かなようだった。

「うわー、いっぱい泣いちゃった。面白かったね」
「そう。それはよかった。じゃあどっかで何か食べよっか」
「あ、待って」
「ん?」
「はい」
「…………」

 この子は学習力ってものがないのだろうか。何度も拒否してるのに懲りずに私にチュッパチャップスを手渡してくる。
 ここですぐに突き返すこともできたんだけど、今日はユカへのお礼を兼ねているので少し躊躇ってしまった。その間にユカは私の手を無理矢理こじ開けてチュッパチャップスを握らせてきたから、もう受け取るしかなかった。
 食べるかどうかは別にして、まぁもらっておいてもいいだろうと、そのままポケットに突っ込んだ。
 ユカはそれでも満足だったらしく、ニコっと笑うと私の手を自然に掴んでそのまま歩き出した。

 軽く昼食を挟んで、私達は適当にウィンドウショッピングを楽しむ。ユカも化粧はこんなだけど、アクセサリーとかのセンスは普通で安心した。やっぱりこの化粧は無理してやってるのかなとも思った。
 前にもちらりとそんなことを言ってしね。

『えっと……ゲッペルドンガーじゃなかった……ドッペルンゲンガーに会いたくないから……』

 あれはどういう意味だったんだろう。少なくともユカはドッペルゲンガーのことを信じてるのは確かだった。

「ね、プリクラ撮ろうよ!」
「いいけど、あんたこれで何枚目よ」

 道すがらプリクラ機があればことごとくそれに入ってプリクラを撮るユカ。さすがに私も三台ぐらいが限度だというに、この子ときたら、全部入らないと気が済まないみたいな勢いで次から次へと突っ走る。
 一日でこんなにプリクラ撮ったのは今日が初めてだ。頭を抱えつつも横でうれしそうに笑うユカを見るともう何も言えなかった。

「じゃ、そろそろ帰ろっか」
「…………」
「ユカ?」

 さっきまであんなにはしゃいでいたユカが急に静かになったと思ったら、ある一点を見つめてボーっと突っ立ていた。
 私は何気なくユカの視線を追ってみると、そこには――

「っ!?」

 ユカと同じ顔をしたもう一人のユカがいた。

「ひっ……いや……いやぁあああああああああああああああ!」
「ちょ、ユカ待ってっ――」

 それを見て錯乱したユカは私を置いてどこかへ走り去っていく。私もそれを慌てて追うが、もう一人のユカが気になって、ふと後ろを振り返る。
 でも、もうそこには誰もいなかった……あれは見間違い? いやそんなことはない私は確かに――
 その後、ユカを見つけたときにはもう日がすっかり落ちた頃だった。
 消沈するユカをこのまま家に帰すのは忍びないと思った私は、ユカを自分の家に泊めることにした。

「はい。ホットココア。これでも飲んで落ち着いて」
「うん。もう大丈夫。ありがとう……」

 ユカは大好きなチュッパチャップスに手をつけないほどひどく落ち込んでいた。
 沈黙に耐えれなくなった私はユカに今回のことを聞いてみることにした。ユカにしてみれば、あまり気分のいい話ではないかもしれないが。
 同じものを見たもの同士、何か解決策が見つかるかもしれないと思ったからだ。

「ねぇユカ……話してなかったけど、私もあんたと一緒でその……アレをみたことあるの……」
「…………」

 ユカは一瞬目を大きく見開いて私のことを見たが、すぐにその視線は下へと下がった。
 私はいたたまれない気持ちになったが、それを押し殺し、話を続けた。

「ドッペルゲンガー……いわくそれを見たものは死ぬ。自分とうり二つの存在。もう一人の自分。この世に自分は二人もいらない。ドッペルゲンガーが現れると必ずどちらか一方が消えていなくなるって言うけど……そんなのどこにでもある都市伝説の一つだよ。自分に似てる人なんて探せばその辺にごろごろしてそうだし。それに何より実際にドッペルゲンガーに会って死んだ人なんて聞いたことがない」
「…………」

 ユカを励ますための言葉でもあったが、それは間違いなく自分自身を慰める言葉であったことは否定しない。
 この恐怖感ってのは一朝一夕にぬぐい去れないことは何より自分がよく知っている。そんな程度の言葉で安心できるなら私だってこんなに悩んでいないからだ。

「誰も死なないよ」
「え?」

 突然ユカがしゃべり出したのでつい大げさにびっくりしてしまった。

「誰も死なない……ドッペルゲンガーはオリジナルと入れ替わるだけ。それだけ。同じ存在がただ入れ替わるだけだから死んだりしない。二人が一人になるだけ。自然の摂理……」
「…………」
「見た目が同じで、中身も同じなら入れ替わったって誰も気づきもしない。だからいつまで経っても都市伝説のまま。本当のことなんて誰にもわからない。それこそ入れ替わってしまった本人以外は……でもその本人はもうどこにもいない……ここにいるのはもう一人の自分。ドッペルゲンガーだけなんだから」
「やめてっ!」

 思わず大声をあげて立ち上がる私。ユカは私のそんな行動を気にした風もなくココアをちびちびと飲んでいた。
 私はそれをみて頭に血が上っていくのを感じた。

「あんた何言ってんの。そんなの死んだのと一緒じゃない! 自分が自分じゃなくなるのよ? それで本当に死んでいないって言えるの! そんなの私絶対に嫌! たとえドッペルゲンガーが私とまったく一緒の存在でも。今ここにいる私が私じゃなくなるのは怖い。そんなの耐えられない。なんでそんなこと言うの……ユカも見たんでしょ……じゃあ私の気持ちわかるよね。私はあんたが落ち込んでるから励まそうとして……ひぐ……んぐ」
「……ありがとう。ごめんね」

 感情の高ぶりを抑えきれなかった私を優しくユカは抱きしめてくれた。その日はそれっきりもうドッペルゲンガーの話題は出さなかった。二人して無言でベッドに入り眠った。
 起きたら枕元に小さなメモとチュッパチャップスが一つ置いてあった。私はそれを見てなぜかひどく不安になった。

「ユカ……」

 そこにはいない者の名前を呼んでみる。もちろん返答なんてなかった。
 不安は嫌な形で的中した。いつものように学校に行ってみたが、ユカの姿がどこにも見当たらない。
 散々探し回ったあげく、放課後になってもユカが姿を見せることはなかった。
 クラスメイト達にユカを見たか訪ねてみたが「またいつものサボリでしょ」ととりつく島もなかった。
 ほんと、なんでこの世は理不尽なのだろう。
 切羽詰まった状況なんて当事者だけしか理解できず、まったく関係ない他人にとっては取るに足らないこと。
 そこにどんな些細な異常があったとしても気づこうとなんてしない。
 そうユカが消えた今、これはもう私個人だけの問題になってしまったのだ。

 けれど、次の日。ユカはアッサリと学校に登校してきた。
 みんなもやっぱり昨日はサボリだったんでしょと冗談半分にユカに笑いかけていた。
 でも私はとてもじゃないが、みんなと一緒に和気藹々とできる気分ではなかった。

 なぜならそのユカは――

「はい。食べる?」
「い、いらない。前にも言ったけど、私ソレ嫌いなの」
「そう……ちゅぱ……んちゅ……ちゅぷり」

 あの毛バイ化粧を落としたユカがそこにいた。
 実際、私はあのユカしか見たことがなかったので、ユカの素顔を見るのはこれが初めてだった。
 でも問題はそこじゃない。たしかに化粧以外はまったくといっていいほどユカそのものだった。
 なのになぜか私は目の前のユカをまるで別人みたいに感じるのだった。
 気のせいならそれでいい。でももし今目の前にいるユカが本当に別人だとしたら――?

『見た目が同じで、中身も同じなら入れ替わったって誰も気づきもしない』

 いつか言っていたユカの言葉を思い出す。
 確かに見た目が同じで中身も一緒ならそれは本人以外の何ものでもない。
 でも私は知っている。ドッペルゲンガーってものがどういうものなのかを知っている。
 その上でもう一度ユカを確認してみる。

 やはり何かが違う。

 具体的にどう違うのかと聞かれても答えることはできないけれど、あえて言うなら勘。
 そう私の勘がコイツはユカじゃないと警告している。ほんのちょっとの期間だったけど私は本物のユカと一緒に過ごした。
 あの時のユカと今のユカでは致命的な違いがどこかに存在するのだ。
 だから私はその違いを見つけ出すために、あえて本物かどうかも分からないユカに積極的に絡んでいくことにした。

 ――それがとんでもない間違いだと気づきもせずに。

「ねぇ、プール行かない?」
「いいけど、この辺のプールはどこも人がいっぱいよ」
「大丈夫、私穴場知ってるんだ、えへへ~」

 油断していたと言えばきっとそうなのだろう。この無邪気な笑顔がとても偽物だと思えずに私はあっさりユカの誘いをオーケーした。
 当日はユカが案内してくれるということで、私はウキウキ気分でユカを待っていた。

「ごめーん。待った?」
「あ、うん別に待って――!?」

 なんで今頃。どうしてこのタイミングで。いやこれは単なるユカの気まぐれだろう。別に今までだってこういうことがなかったわけじゃない。けれどあまりにもタイミングが良すぎる。いやこの場合は悪すぎると言い換えてもいい。
 私は今の今まで忘れかけていた警戒心を一気に呼び起こした。なぜなら、ユカの顔が――

「どうしたの? チュッパチャップスほしいの?」
「え、あいや。別に。つか、あんたまたそれに戻したんだ……」
「あー化粧? うんまぁ外出るときは大概この化粧だよ私」
「なんで?」
「なんでって言われても……」

 私の様子がおかしかったのか、ユカのテンションも下がっていく。
 たかが化粧が濃いだけで動揺する私も私だけど、何もこんなタイミングで元に戻すユカもユカだった。
 ユカに連れられるまま、私はひたすら頭の中で考えを巡らせ続けていた。
 ユカと一緒にいればいるほど、まるで今のユカが本当に前のユカとうり二つでどんどんと否定のしようがなくなっていく。
 ドッペルゲンガーとの違いを発見するどころか、むしろそれは限りなくゼロに近づける行為でしかなかった。
 いつしか、私はもうユカが本物だろうと偽物だろうと一緒にいれればそれでいいとさえ思うようになっていたのだ。
 それにその頃から私は私のドッペルゲンガーを見ることはなくなった。
 万々歳じゃないか。ドッペルゲンガーなんて初めから存在しなかったのだと証明されたのだから。
 ユカもいて、私もここにいる。化粧だっていつも同じだと飽きるからたまに変わったっていいじゃないか。
 これ以上何を否定しようというのだ私は。
 だからこれは喜ぶべきことなのだ。ユカは本物で、私はドッペルンゲンガーをただの都市伝説として片付けることに成功した。

 そうそれで良かったんだ。それで――

「何。ふざけてんのよ……」
「え? 何?」
「何、ふざけてんのよあんた!」

 私の怒りはこの時頂点に達していた。だってそうだろう。私は今自分できちんと自分の気持ちに整理をつけたのに。なのになんでコイツはこんなふざけた格好をしている? 
 いくら友達でもやって良いことと悪いことの区別ぐらいついてもいいものだ。いやこれはそもそもそんな生易しいものですらなかった。

 なぜなら彼女の着ているその水着があろうことか――スク水だったのだから――

「やめてよ。なんでそんなものがこの世に存在するのよ」
「………………」
「そんなの都市伝説よりひどいじゃない。いいえ、都市伝説そのものだわ」
「………………」
「あんたやっぱりユカじゃなかったのね。こんな裏切りってひどい。騙すなら最後まで騙してよ……なんで今このタイミングで私の前に現れるのよ!」
「………………」

 ヒステリックに叫び続ける私をユカはどこか虚ろな目で見つめ続けていた。やがてそれも飽きたのか、一本のチュッパチャップスを取り出し口に加えると、ニヤリと笑った。

「あーあ。やっぱこの程度か……せっかく面白くなりそうだったのに。やっぱこの程度でみんな壊れちゃうんだ」
「………………」

 もうそれはまるでユカじゃない。ユカの顔をした別人だ。私は絶句せざるを得ない。まさか本当にドッペルゲンガーなんてものが存在したその事実に。ただ愕然とするしかなかったのだ。

「でも貴方はひとつ勘違いしてるよね」
「え?」

 答えてしまってからしまったと思った。目の前にいるのが本当にドッペルンゲンガーだとしたらどんな些細なことにも反応を返しちゃいけなかった。後悔してももう遅い。私は――

「だってほら……」
「ひっ――いや――」

 ユカが化粧を落とす。私は顔を引きつる。だってのその顔――

「――私は貴方だから」
「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」








 そこでぷつんと意識が途切れた。気づいたら私は学校にいた。
 学校、いつもの日常風景。目の前の席にはユカがいて、今日もおいしそうにチュッパチャップスをくわえている。
 私はいつものようにただぼーっと一日を過ごす。あれが夢だったなんて思えない。
 今の自分が本当に自分かどうかさえもわからない。もう何が何だかわからないけれど。
 
 この世に私は一人しかいない。

 それだけはどうしようもなく理解していた。ドッペルンゲンガー。もう一人の自分。そんなのが本当にいるとしたらそれはひょっとして貴方の――



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